保護者さん(嘘)に相談
「ソラ、俺に用事があるんだろ?」
ルイトは風呂の準備をしていて見えない。が、声だけがオレに届いた。オレはコートを脱いで、髪をほどきながらそれに返事をした。
「なんだ、知ってたの」
ベッドの上に放り投げたコートは畳まれておらず、ルイトに怒られるのを想像してそれを畳む。部屋にはオレとルイトの声、それから暖房を入れるエアコンと音とルイトが軽くシャワーで風呂を掃除している音くらいしかない。 あ、シャワーが止まった。
「なんの用だよ」
「ルイトとジンは雪国に落ちたんだよね?」
「落ちたっつーか、着いたっていうか、まあそんな感じだな」
「シングとミルミがこの街に、オレとレイカはブルネー島に落ちたんだよ。なんか縁とか出身地だとかに落ちたらしくって」
「レイカは出身地もずっと暮らしてた土地もわからないもんな」
「正確に言うとオレは海の中だったんだけど。泳ぐの得意だし、溺れないで済んだ」
「ソラが生きててよかった……」
「それでさ、そのときに魔女もいて、まあ、怪我したわけですよ」
「また自暴自棄になったのか? 怪我の痕を見せてみろ。何度も言ってるけど、頼むから……」
「まあ、その報告と、聞きたいことがあるんだけど」
「ん?」
右腕の袖を捲って短剣で真っ直ぐ刺し引いた傷痕を見せながらオレは今も抱えている謎についてルイトに聞いてみる。まじまじと傷口をみて、時々自分が痛そうに顔を歪めるルイトは恐る恐るに傷口を触っていた。 いつの間にかエアコンは部屋が指定された温度になったため、音が小さくなっている。
「マレ・レランス――オレの姉ちゃんのことなんだけど」
「……もう何年も前に死んでるだろ?」
「うん、五年くらい前に殺されたはずの姉ちゃん」
「はず?」
「わからなくなってるんだよ……。後藤さんと雄平がいたあっちの世界に、姉ちゃんがいたんだ。行方不明になったんだけど」
「異能でいたように作用されたんじゃないのか? 死んだ人間が存在するわけがないだろ」
「でも、誰が?」
「うちの組織の誰かが」
「姉ちゃんの幻をオレに見せてなんの利益があるの?」
「……それは……」
袖をおろして、ルイトは目をそらした。大事そうにオレの右手を握ったままだ。握り返したりはしないで、そのまま話を続行させる。
「このことはまだルイトにしか話してない。まだよくわからないから……」
「だから今日が二人きりで話すチャンスだと思ったわけか」
「うん」
「俺のほうでも調べてみる。これでも諜報部だからな。頑張ってみよう」
「ありがとう」
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