お家




目的地についたようで、車は音もなく停車した。降りる前にシングから「わかっていると思うが、この事はルイトたちに話さないでほしい。まだミルミとソラ以外にカノン様とラカールとチトセしか話していないんだ」と念をおされてオレは何も言わずに頷いた。

車から降りるとオレは目の前の豪邸にぽかんと棒立ちするしかなかった。どうやら別の車で移動してきたジンもオレと同じ心境のようで、同じくぽかんと棒立ちしていた。



「わ、わあ……、大きい家だね」

「いやいや、でかすぎだろ。シングの両親は社長か何かなのか?」



レイカのふともれた感想にシングは苦笑し、質問に答えた。



「まあ……、そんなところだな」



照れ笑いをしている。シングの後ろでミルミは「マスター、冷えますので中に入りましょう」と促していた。

それにしても本当に大きな家だ。玄関のある方面からしか見えないが、三階建てで横の長さは通常の一軒屋が四つくらい並びそうなほど。外見の装飾にも手がこんでおり、鉄の門には植物をあしらった彫刻がされている。レトロが外見をもつ豪邸のデサインはため息が出てしまう。
うちのレランス家の家もそれなりに大きな方だとは思っていたが、ここまで大きくない。



「俺たちみたいな汚ねぇ人間が入っていいのかわかんねえな」

「どうしよう、私、緊張してきた……っ」

「ジンとレイカは肩に力を入れすぎだろ。もっとリラックスしろよな」

「じゃあルイトは堂々と気軽に入れるのかよ!?」

「なんで怒るんだよ」



いまにも殴りかかってきそうな形相をするジンに怯えるレイカと違ってルイトは飽きれ気味に手を腰に当てた。

アレンさんの誘導もあって、やっとシングの家に入ると、中も豪華絢爛でオレたちは言葉を失った。
シングとミルミの案内ですぐに客間へ通された。ソファがとてつもなく柔らかい。ウノ様の書斎にあるソファと同じくらいで、オレのベッドよりも柔らかい。



「取り合えず適当に座ってください。これからのことを話しますので」

「あ、お菓子発見」

「やりぃっ」

「お前ら座る前にお菓子に手をつけるなよ。ったく」



ミルミの指示に難なく従うルイトとレイカを反面に、オレとジンはすでに用意されたお菓子とジュースに手をつけた。
困ったようにして笑うレイカと怒りを現すルイト。ルイトと違ってレイカは大人しい。あんな鬼嫁、貰ってくれる人がいるとは思えないな。



「っ痛」

「口に出てるぞソラ」

「苦しいってルイト、ね、ねえ、……ぐ。容赦ないな……っ」

「うぐッ」



後ろからオレの首に腕を回して絞めるルイトの腹に肘を打ち込んで、「セクハラ」と蔑んでおく。冗談の一貫であるのにルイトはまともにショックを受けていた。まあ、ルイトのことは放っておくとしよう。