蒼と朱の交差




「見抜かれたといっても、魔女と同じ死属性だからこそカノン様は解ったのだろうな。俺の場合は感情が疎くなったりするんだが、ソラの場合は寿命が短くなるのだろう。これはもう……」

「もう寿命なんて空っぽみたいなもんだよ。いつ死んだっておかしくない。魔術だとか封術で『その時』を無理矢理に引き延ばしてるだけ」

「ああ、ソラはレランス家の生き残りだからな。簡単に死んでもらっては困るのだろう。だから周りはソラによく協力する」

「……。オレ、魔術師じゃないんだけど」

「魔術師、召喚師、封術師の素質があっても能力者に覚醒しているものは世の中に沢山いるさ。逆に、シャラは術者の素質がまったくと言って良いほど無い種族であるのに魔術師だ」

「……」

「……話が逸れたな。ソラは寿命が短くなる。今、ソラはここの段階だ。次は外見的な変化。例えば刻印が広がるだとか……、……目の色が赤くなるだとか」

「っ!? シング、その目……まさか……」



シングはミルミと顔を合わせて、苦笑いを浮かべた。ミルミは目を伏せて、静かにオレとシングの会話に耳を傾けている。



「……まあ、そういうことだ」



少し言いにくそうにシングは、やはり苦笑いを浮かべた。その作り笑いが、場の空気を誤魔化すためではなく、文字通りのただの作り笑いであるなど、言われるまで気がつくはずがない。そして、その真っ赤な目が"呪い"によるものだとは……。
オレは目線を窓の外へ向かわせて、一口紅茶を飲んだ。



「これまでの過程で幻覚を見ることがある」

「……幻覚?」

「ソラの目に幻覚が映るかは分からないのだが、もしかしたら幻聴くらいは聞いたことがあるかもしれないな」

「嘘」

「無意識に」

「……」

「次は、というか、今の俺なんだが」

「……うん」

「精神を確実に喰われている感覚だ。まるで狂ったように理性がブッ飛ぶ。ミルミのお陰でなんとか理性があるものの……。ミルミの姿が見えなくなるだけでもう駄目だ。ミルミの声が聞こえなくなると不安になる。契約をさらに重複させなくては死んでしまう」

「契約を重複?」

「『血の契約』の上に更に別の契約を重ねる必要がある。実家に帰る目的の半分はこれだな。……俺はそうやってなんとか生きようとしている。ソラは寿命だからなにか病気のようなリスクを抱えるかもしれない。それこそ、死を背後に感じるくらいの。そうなってはまともに魔女と戦えない。魔女を殺す前にお前が死ぬぞ」



どすん、と。
血の目がオレの心臓を突き刺した気がする。
ただシングの言葉に衝撃を受けたのではない。
悪寒。正体の判らない悪寒が、どすんと突き刺さったようだ。