赤い目の呪い




暖かい紅茶を喉に通し、慣れない寒さから身体を暖めた。アレンっていう人はお菓子も出してくれて、オレはもちろん遠慮なく食べる。



「……で、シング。どうしてルイトたちとオレを分けたの? こうやって分けたのには理由があるんじゃない?」

「ない、と言ったら?」

「それはオレが単に深読みしすぎただけだね」



シングの赤い目は彼の手元にある紅茶に視線が注がれていたが、黒い髪の合間をぬってオレの方を真っ直ぐみた。シングの赤はまるで血のよう。瞳から血が零れてくるのではないかと思うほど綺麗で美しい。儚ささえも感じるそれは、今、強い眼差しをしていた。



「"呪い"の話をしよう」

「!」



やはり意味があったか。
シングはネクタイをほどき、ボタンを外して上半身の服を脱ぎ始めた。何を見せるというのだろうか。シングが上着を脱ぎ、カッターシャツを脱いだ時、オレは面をくらった。
それを見て言葉が出なくなった。
ゾクリと恐怖を覚えるくらいに。



「……シング、それ」

「"呪い"だ」



シングの素肌に黒く黒く、深く深く刻まれていたのは"呪い"の刻印。確かな刻印。それはオレの左腕にもビッシリあるのだが、そうではないのだ、違う。オレなんかと比べ物にならない。左腕だけじゃない。鎖骨の少し上あたりまで、右腕の上腕あたりまで、腹の臍に届くまで、シングの身体にびっしりと、まんべんなく侵食していたのだ。



「っ……」

「実はな、エマと一戦交えて魔女と遭遇した日から今日までいっきに広がったんだ」

「そんな、短時間で」

「マスター、風邪を引いてしまいます。服を着てください」

「悪いな、ミルミ」



シングはオレに刻印を見せてから、すぐにまた服を来た。
無意識にオレは自分の左腕を掴み、強く握る。

怖い。



「俺はどうやらソラよりも"呪い"の侵食が早いらしい。"呪い"の侵食には段階がある。オレがこれまでに体験したことだ。参考にしてくれ」

「その言い方……」

「まず、発作だ。もうソラも体験しただろう。あの激痛。続いて精神的な侵食。俺の場合は寿命というより精神的な"呪い"だからな。俺は睡眠が不可能になったり、感情が疎くなったりしている」

「感情? でもシングはミルミみたいに表情がないわけじゃないでしょ? むしろ精神的な侵食がないオレよりも笑ってる」

「気付かれないように演じてるだけだ。だが、この前カノン様と面談したときは一瞬で見抜かれたがな。ちなみにミルミが無表情なのは"呪い"が契約を経由してミルミにも若干感染している」



契約は、たしか二人でほとんどのものを共有する。寿命だとか。シングとミルミは若干ながら"呪い"まで共有しているのか。
ミルミを見てみるが、彼女はやはり無表情で、何を思っているのかまったく分からなかった。