バラバラと別れ




リャクを寝かせたあと、ナナリーは自分の仕事を片付けるために書斎へ向かっていた。補佐はボスの側を離れるわけにはいかないので、書斎から書類を持ってこようとしたのだ。しかし、その道中にサクラと遭遇した。冷静沈着で淡々としているサクラが息を切らしてした。体力的な疲労が明らかな原因だ。



「サクラ? こんな早朝にどうしたの?」

「な、ナナリーか……」

「?」

「……それが、ティアが消えたんだ」

「え!?」

「ただでさえソラやルイトたちが乗った列車が運転見合わせで止まってるって忙しいときに……」



チッと舌打ちをして、サクラは壁に寄り掛かった。二人だけの声が響く上層階は、静かな早朝に響く。そしてそこに新たな人物の声が加わった。



「おやおや。サクラとナナリーは早起きだな」



はははは、と笑いながら現れたのはウノだ肉体が無く、睡眠をとることができない人形の姿をした彼はふわふわと浮かびながらサクラとナナリーに近づいた。人間の気配がないウノに二人は声が掛かるまで気が付くことができず驚いた。



「ウノ様っ!」

「廊下から話し声が聞こえたのでな。サクラがこんなに息切れをするのは珍しい。どうかしたのか?」

「ウノ様、ソラたちが乗った列車が運転見合わせになったことは……」

「ああ、聞いたぞ。ちょうどシングとミルミの実家が近くにあるそうじゃないか。それにシドレたちも付近で仕事をしているんだったな」

「お耳が早い……」

「いやいや、ラカールとチトセもいま里帰りをしていて、偶々だよ。おかげでうちは今スッカラカンだ。はっはっはっは。人手不足だから予定がハードでな。ははははっ」

「それに加えてティアが行方不明になりまして」

「うおっほん。え?」

「偵察用の召喚対象も消されたので追跡ができなくなり」

「……ふむ。やはりハードなスケジュールになりそうだな。集会を開こう。組織の一員ではないにしろ、テアは特殊な立ち位置だ。捜索をせねばなるまい」



少し考える素振りを見せたウノは、はっはっはっは、と笑う。「大丈夫だ」と言ってサクラの頭をその布と綿でできた手で撫でた。
ツバサとテアが行方不明となった。
ただでさえボスが突然の不在で未だに現状維持に必死だというのに、加えてツバサの義妹であるテアがいなくなる。サクラは頭を軽く撫でられて「俺達は大丈夫ですよ」と弱々しく呟く。

静かにナナリーはそっと眠りにつくリャクを思い出し、拳を握った。眠る前、リャクは言った。「もう、この組織は終わりだ」と。