不老不死の居場所
ツバサはいくつも所持している家のうちのとある一軒にいた。ベッドに放り投げたノートパソコンに構うことなく、窓の外から青白い満月を見上げた。点々と浮かぶ星に囲まれた月が眩しく感じてしまう。 田舎の静かな町は、まだ夜の8時だというのに店の電気は一斉に消えて家庭の明かりだけがポツポツと光っている。
組織のボスなんかになる前、ツバサは情報屋をしていた。不老不死という異能を隠して。一人で暮らしていたあのときの感覚が戻ってきたようでもあった。
「黄金の血」にて自殺したツバサは"シナリオ"と不老不死の力に抗えずまた息を吹き返した。
無理矢理、組織をリカとサクラに任せることになった。 いつもはふざけているのに自分に絶対的な忠誠と尊敬を抱くシドレとアイとワールに何も言わず置いてきてしまった。 憧れを抱いてくれていたミントは行方をくらませてしまった。 義理ではあるが兄妹として愛したテアを困らせた。
ツバサが目を閉じると、ついこの間まで一緒にいた人物が浮かぶ。そして、最後には、あの黒髪の青年だった。女性的な顔をしている。フードを被って顔を隠し、自分の異能に従って異能を集める青年だ。 ツバサは首を振って脳裏に浮かんでいた人を振り払った。
冷たい風が窓から入り込んで窓を閉める。 昼間に異能者失踪事件が起きた雪国の小さな町で、ツバサは一人、遅い食事の準備に取り掛かった。この事件は国の素早い判断で揉み消されることになるが、そんなことはツバサにとってどうでもよかった。この町が数日後に大きな雪崩で消えると予想した国の判断も、どうでもいい。家の土地を売り払って、雪崩を見送ってから出国してしまえばツバサには関係のないことだ。
ツバサには、まったく、関係ないことなのだ。
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「っち。見付からないか……」
物が散らかって足の踏み場がないようなリャクの研究室の奥には出入り口とは別の扉がある。そこでリャクは天属性の中級魔術を展開してツバサを捜していた。 収集家にツバサが生きているのだという事実を聞かされ、リャクは帰ってきてからずっと探索しているのだが、見つからない。リャクはツバサに聞きたいことがあるのだ。大嫌いな相手ではあるが、だからといって捜さない理由にはならない。
コンコン、と優しくノックを叩く音がしてドアが開いた。リャクの研究室に入れるのは補佐のナナリーのみだ。
「やっぱりここにいましたか、リャク様」
「どうした?」
「寝てください。疲れていますでしょう?」
「それだけか」
「はい」
「まだ……、いや、あともう少しだ」
「リャク様の言う『もう少し』は長いです」
「……」
「寝てください」
「……仮眠をしてくる」
「はい」
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