お姫様抱っこ




「おいおいおいおいお前ら!!」



ルイトが怪我人とは思えない声で叫んだ。自分で叫んだ声がうるさくて頭に響いたせいなのか、怒りか、両方のせいで眉間にはとても深くて濃いシワができていた。



「絶対に楽しんでるだろ!!」



オレのコートをルイトに被せてオレたちは外へ駆け足で進んでいた。オレはルイトを横抱きにした状態だ。これは別名「お姫様抱っこ」という持ち方。本音を言えばこの状況は楽しいものがある。
オレの隣でジンは用心棒の係りを担っている。たまに出てくる警備員を殴って蹴って飛ばしているのだ。



「静かにしてよルイト。嫌なの?」

「嫌に決まってるだろ! 女の子に持ち上げられた時点でショックだっつの。その上、こんな……っ」

「じゃあジンならいいの?」

「男に持ち上げられたって嬉しくねえよ」

「……じゃあ、怪我人なんだから黙っててよ。もう少しなんだしさ」

「っ……」



自分は走れる、とでも言いたげな顔をしていたルイトだが、目を行き先にそらして黙った。ジンは走りながら携帯電話を媒介にしてレイカにルイトの救出が成功したことを伝えている。
通話が終わり、携帯電話をポケットにしまったジンは「直接駅に集合だってよ。さっさと雪国を離れたほうが最良なんだと。切符はレイカに任せた。三番線だからな」と電話で話をしたことをオレとルイトに伝えてくれた。ルイトは「えっ!?」と目を見開く。もう施設から外に出て、なるべく人気のない道へ行く所だ。ルイトは急いでオレのコートを引っ張って体を隠した。男がお姫様抱っこされてるだなんて恥ずかしいんだろうな。オレだって、そんなことされたら羞恥で死んでしまいそうだ。しかも人前で。










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「大丈夫ですか?」

「あ、ああ……。ありがとな」



オレたちが駅に着くと、すでにシングとミルミ、そしてレイカは合流していた。ルイトのお姫様抱っこに笑ったのはシング。クスクスと困ったような笑顔を見せたのはレイカだった。年中無休で無表情のミルミは一貫したままだった。現在、無事に汽車に乗り込むことに成功したオレたち6人は、テーブルのついた座席を、通路を挟んで占拠している。雪国から離れる景色。先ほどまでいた町にはパトカーの赤い光がいくつも見えた。
ミルミの異能で、ルイトの怪我を軽減させていると、車内放送がかかった。ルイトはレイカが予備として持っていたヘッドフォンの調整をしている最中、オレとジンはお菓子を貪る最中、シングとレイカが安堵している最中、ミルミがルイトの傷口を塞いでいる最中であった。



『――12時17分ほどに、なんらかによる線路妨害が生じたため、この列車は発展国のアフィマ都市北口駅を急遽終点とします。繰り返し、連絡させていただきます。なんらかによる線路妨害が――』