少女の絶命




特化型能力者だと、ルイトとジンは少女から聞いた。特化型能力者は人間がもともと持っている能力が異常に特化した者だと。その特化した部分は一部だけではなく、身体全体もそうであり、一般の異能者や人間とはわけがちがう。

急場凌ぎで逃げ込んだ暗い洞窟。その中で聞かされる知らない異能者の知識。少女もルイトたちと同じ能力者であるが、それは普通型能力者。「幻視」が彼女の異能だ。文字通り幻を見せる力だ。
町から自分達を追ってくる大人たちの目を誤魔化している。ルイトがまだ10歳になったばかりの頃の話だ。ジンはルイトと一つ違いの子供。少女は18歳で、なんとか二人を支えなければ、と強く意識していた。

三人の目的は、恐ろしい雪国から隣の国である発展国へ逃げること。

明るいうちは目立つ。雪国の明かりが消える夜に三人は徒歩で転々と歩いていった。少女は洞窟に下手くそな絵を描いて二人を励ましたり、夢を語り合ってなんとか弱気にさせないように、最後まで逃げ切れるようにと。
しかしたった三人の子供が国から脱出することなど、無謀だった。

雪国の極寒に耐えられなく、いちばん始めに倒れたのは少女だった。異能を連日使いすぎたせいで酷い高熱をだし、幻を利用して隠れることが不可能になった。幼いルイトとジンだけではなにもできず、三人を捜していた大人たちが、とうとう見つけ出したのだ。

容赦ない大人たちから逃げ、少女を抱えたジンと、レーダー役になったルイトは走った。日差しが雪を照らし、固くなったそれを踏みながら逃げる。
狩りのときに使う弓矢で、ルイトは酷く恐ろしい形相で追ってくる知り合いを射る。

いくら知り合いでも躊躇なかった。自分が、いままで見てきた異能者と同じ苦しい死にかたをするのが怖かった。ためらいなくルイトは矢が尽きるまで殺した。なかなか命中して殺すことができなかったものの、怪我を負わせて同時に何人かも一緒に留まらせることができた。

それでも、それでも、子供が大人に敵うはずもなかったのだ。ルイトたちは追い詰められた。

少女の体温は上がる一方。

からだが傷だらけになり、ボロボロになったルイトとジンは、交戦中に崖から落とされた。なんとか雪がクッションになったものの、崖の上には高熱をだした少女と複数の大人がいる。

「逃げてぇッ!!」と叫ぶ少女の声。
崖の上からは大人たちの叫び声。最後に少女の掠れた、ルイトたちを逃がそうとする声。

嫌でも聞こえてしまうルイトは目から涙を流して崖を見上げていた。カチカチと歯の奥がなり、震えていた。



「君たち、異能者だよね?」



立ち竦んでいる二人の後ろに、金髪碧眼の青年が現れた。

ツバサだ。