人形だらけの部屋の主も人形


ソラはシャトナとレオの間に挟まれて移動した。やってきたウノの書斎がある階層は立場がずいぶんと高い者にしか入れないエリア。そしてソラは久しぶりにエレベーターを使ってその有能さを思い知った。
この組織のビルは階段を使う者が多い。普段から体力づくりをさせるのが目的だ。エレベーターは電気で動かすことはできない。それらしい異能を駆使して利用するしかないのだ。エレベーターという重たいものを動かせる異能は普通型能力者だけだ。といっても普通型能力全員が使えるわけではない。シャトナは異能で動かせてもレオは動かせない。ましてや特化型能力者であるソラも操作はできるはずがない。ソラとよく行動を共にするルイトも特化型能力者なわけで。エレベーターにある程度の補佐として電力はまわっているが動かせない。ソラはほんとうに久しぶりにエレベーターに乗った。
そして上の階層につく。

下の階とはまったく違い、呼吸の音が聞こえてしまうほど静かだった。それが息苦しく、ソラは居心地が悪そうに落ち着かなかった。



「こっちよ」



シャトナとレオが前を歩き、進んでいく先にあったのは大きな扉。シャトナとレオはここまでだと言い部屋にはソラだけが入ることになった。

ソラは緊張しながらも表情に表さず、そのままノックをした。
中からの返事を確認すると扉を開く。
扉を閉めようとしたときシャトナが「リラックスして大丈夫よ。愛してるわっ」と投げキッスをしたのでソラは急いで閉めた。



「……ソラ・レランスです」



本名を口にして用件を言ったあと気づいた。
部屋が人形だらけだということに。

ソラは呆気にとられたが部屋の奥にある机の上から声がしてそちらに注目。ウノだ。ソラが見慣れた、ウノ。

部屋にある可愛らしくファンシーな人形といまにも睨んできそうなフランス人形、日本人形。



「ああ、ソラ。来たか。そこにソファがあるだろう?座りなさい。疲れただろう」

「ありがとうございます」



部屋のちょうど中央にある紺色のソファをすすめられ、座った。

ウノにはリャクやカノンのような威圧感がない。かといってリカやサクラのような近寄りがたい空気が漂っているわけではない。
ソラは部屋に入ったときからなんとなく落ち着き、安心していた。



「では話をしよう。……と、そのまえにソラ」



低い男性の声がすーっと近付く。若くはないその声も、聞けばソラは緊張が解れていった。



「今度からファミリーネームは『ヒーレント』と名乗りなさい。こちらの世界ではな。物騒になったものだ。はっはっはっは」



ひとがたの人形がソファの前にあるテーブルにのる。ウノの魂がはいる人形に表情はないものの、苦笑を混じらせたその声はソラに感情を読ませた。
あえてウノは声で相手に感情読ませやすくしているのだが。

ソラは了承の返事をして復唱をした。