雪国に生まれてしまった少年




異能者は人間ではない。

化物、悪魔、鬼……。たくさんの呼ばれ方はあるが、いずれにしてもそれは悪として認識されていた。この世にあるまじき悪。善たる無能者である人間が排除すべき存在。どうしようもない悪。雪国では異能者と無能者を区別する社会がいつからか、昔から成り立っていた。

幼い頃から異能者は悪だと教育され、発見された彼らの公開処刑を目の当たりにして育っていたルイト・フィリターとジン・セラメントレ。彼らは自分が異能者だと覚醒するまで、それが悪だと信じて疑わなかった。

異能者が痛め付けられる姿を見て、異能者が残酷に殺される様子をみて、平然としていた。それが当然だと。

しかし、徐々に覚醒していく異変に気がつくまで時間はかからなかった。


異変的能力者に分けられる能力者のうち、特化型能力者は自分の異能に気づかないことがおおい。ルイト・フィリターとジン・セラメントレだけではなくソラ・レランスのように、彼らを取り巻く周りの人がはっきりと能力者――特化型能力者を認知しない環境であれば気づかないまま時間を過ごす場合がある。気づかないまま死んでいく人も少なくない。


ルイトとジンの祖父は山で狩りをよく行っていた。野生の動物を狩るだけではなく、迷い込んだ異能者をも狩る。専門的な学問をしていない異能者は異能がコントロールできず、武器を持った無能者に殺されてしまうことが多々ある。
ズリズリと地面に引き摺られ、頭皮や顔が石によって抉れ、ピンクの色をした肉がはみ出た血だらけで汚い異能者の足を引っ張る祖父に尊敬の目を送っていたルイトも、いつしかそれが恐怖になっていった。

遥か彼方の、違う国、知らない人の、話し声が聞こえる。
どこかもわからない機械の稼働した音が聞こえる。
どこかの波打つ音が聞こえる。
だれかの悲痛の叫びが聞こえる。
雑音。雑音。雑音。雑音。雑音。雑音。雑音。雑音。雑音。雑音。雑音。雑音。雑音。雑音。雑音。雑音。雑音。雑音。雑音。
幼いルイトには苦痛以外のなにものでもなかった。悩んだ。眠れなかった。

それは、幼馴染みであり、遠い親戚のジンも同じだった。仲良くしていた近所の年上の少女も同じだった。

異能者だということが誰かにバレてしまえば、味わったことのない激しい苦痛が待っている。いままで見ていた、処刑が他人事ではなくなってしまう。たくさんの愛を注いでくれた親でも、処刑台のまえに自分を蹴り飛ばしてしまう。

ただの恐怖だ。きっと、そんな言葉では済まされないほど追い込まれていたのだが、適する言葉がわからない。



「なんで、なんで、なんで、なんでなんでなんでなんで、どうして……!」

「走れルイト!! 追い付かれるぞ!!」



だから、見つかる恐怖から逃れるために、ルイトとジンと少女の三人は走った。逃げた。故郷を棄てた。国から逃げた。