彼女は彼の




収集家の発言に対して一番驚いたのはテアだ。リャクは目を収集家と合わせただけだったのに対してテアは目をまん丸に開いて動きを止めた。



「……どういうこと……?」

「なぜ貴様が奴を捜している? ここに現れたのは何が目的だ?」



テアよりも前に出て、リャクは警戒したまま収集家に言えば、彼は片足に重心を傾けて白く長い上着にあるポケットに手を突っ込んだ。



「目的っつーか……。あいつに用があるんだよ。異能を集めるとかそんなんじゃなくて。死神の近くにいると思ったんだが……こりゃいないな」

「用……って?」

「そこまで話す訳にはいかないな。個人的な用だ。ま、いないなら帰るか」

「貴方がツバサに用だなんて、異能を奪うことしか思い付かないわ。ツバサを傷付けようだなんて、私が絶対に許さない!」

「そんなことをする予定はしばらくないな。お前たちは異能集めでかなり傷付いてもらう予定だが」

「っ……」



桃色の目がテアを睨むがテアは睨み返した。



「……まあいい。奴がどうなろうとオレには痛くも痒くもない。ティア、帰るぞ」

「え!?」

「準備はできている。収集家は奴を捜すのに必死らしい」



リャクは収集家に背を向けて手で合図を送ろうとしていたナナリーのもとへ歩いていった。テアは収集家に背中を向けたくないのだが、リャクのあとについていこうとした。しかしその腕を収集家が掴んだ。静かにしろ、と何も掴んでいない手の人差し指をテアの唇の前に運んだ。
収集家に殺意はない。
肌に直接触れていないため、テアは収集家が腕を掴んでいても必死に離せと拒んだりはしなかった。
テアを殺すような目をしていない収集家に、テアは静かに話を聞こうと頷いた。



「一緒にツバサを捜さないか?」

「っ!?」

「絶対にお前を殺したりはしない。俺一人じゃ見つからない。それにツバサはもう天属性のいるような組織には戻らない」

「ど、どうして戻らないなんて言い切れるの?」

「"シナリオ"に書いてあるからだ」

「……え?」

「あいつは自由奔放すぎる反面、策士だ。何を考えてるかなんて分からないが、悪役になってほしくない」

「ちょ、ちょっと待って! 貴方は一体……」

「もう行け。天属性に怪しまれる」

「……話、考えておくわ……」

「どうも」



テアは背中を向けてリャクとナナリーの元へ歩いていった。二人とも収集家との話に気が付いていなかった。恐らく収集家の何らかの異能が作用したのだろう。テアが振り返ると、もうそこに収集家はいなかった。