空間転移を呼ぶまでの間




「リャク様、サレンを含めて4人同時の空間転移なので詠唱に時間がかかるようです」



詠唱しているリャクに一言いうと、ナナリーはリャクの返事を待った。すぐにでも封術の詠唱をして援護してもいいのだが、リャクがそれを望んでいないことは10年以上の付き合いでわかる。


黒く、肩にかかるほどの長い髪がひらりと舞う。生きているのか疑うほど白い肌。男性であるのに、確かに収集家は美人であった。黒い睫毛の奥にある水色とは反対の、桃色の瞳は色の印象とは反対に殺気を宿している。
テアは奥歯を強く噛みながら手を、謎の力へ伸ばした。触れた感覚はないのに、それと指が重なりあったとたんバチンと音が鳴った。
謎の力が消えた。

死神としての異能だ。
謎の力がなくなり、剣を障害するものがなくなるとテアはさらに力を込めて収集家を突こうとしたのだが、彼は文字通り消えてしまった。次に現れたのはナナリーのすぐ背後。



「瞬間移動か空間転移の類い……? それよりもどうして私の異能が効かないのよ」



テアは収集家の姿がみえた瞬間から彼を殺そうとしている。死神は願っただけで殺せてしまうのに、それが収集家に効かないのだ。

リャクは収集家がすぐ近くに現れると魔術を発動した。黒、紫、青、緑の光を帯びた十字架が収集家の足元から出現。さらに上空から雨のように降り注がれる光の雨。
ナナリーは目をぎゅっと閉じて耳を塞ぎ、うずくまった。ナナリーには守護魔術がかかっているのだが、耳が壊れてしまいそうに煩く、眩しいのだ。数十メートル離れているテアでさえ耳を塞ぎたくなるほどだ。



「ナナリーはサレンを待て。援護は必要ない」

「了解しました」



ナナリーが急いで離れていくのを目で確認しながらリャクは下級魔術で収集家をさらに追撃。
リャクが追撃をする間にテアはリャクの隣に来ていた。



「手応えは?」

「わからんな。収集家は攻撃をするより避けたり防御をすることが得意だ。当たるとは思えん……が、ただの異能にこの天属性の魔術が防御できるわけがない。テアの『死神』や奴の『不死』を耐えたのは実験済みだ」

「そうね……。少しの間ならリャクは私に触れる。……もし収集家に当たっていないなら……」

「避けたことに――、上だ!」



テアと話をしていたリャクはあちこちを忙しなく見ていたが、その視線は左右を見るだけではなく上に向いた。
上からはいつの間にか収集家がいて、両手から大量のナイフをうみだし、それが雨になる。
リャクは最下級魔術で防御壁をつくり、テアは立っているだけでナイフを跡形もなく消し去った。降りてきた収集家はリャクとテアから数メートル離れたところで着地するとため息をついた。



「ツバサ、いないのか……」



残念そうに不死の名前を呟いた。