収集家



「これは即席の結界。こんなに早いと思わなかったから力は不十分です。念のために戦闘準備をお願いします」

「わかったわ」

「ナナリー、収集家の攻撃はどこまで耐えられる?」

「二発くらいが限界だと思います……」

「そうか」



テアの武器を預かっていたリャクはすぐに魔術でそれを出現させてテアに剣を渡した。すでに鞘から刀身は抜かれており、テアはそのまま両手で持った。リャクはナナリーへ背中を向けるようにして指示を出した。



「ナナリー、お前は待機しているはずのサレンに連絡して迎えを呼べ。空間転移をして帰るぞ。テア、オレたちは時間稼ぎだ。収集家は倒さなくていい。が、本気を出せよ。あいつは手加減をしない」

「ええ」

「死ぬなよ」

「あら、心配してくれてるの? 嬉しいな、でもリャクも気を付けてね」

「心配などしていない!」

「ふふ。じゃあ信用してくれてるのかしら」

「そういうわけではないわ! ったく、お前といると調子が狂う。オレをからかうな。……足を引っ張るなよ」

「言われなくてもわかってるから大丈夫」



テアの返答を聞くと、リャクはすぐに詠唱を開始した。
リャクの魔術発動までの詠唱はほかの魔術師に比べて極端に短く改良されている。しかも最下級、下級魔術には詠唱を必要としない。そのため、テアはすぐに今詠唱をしているのが最下級でも下級魔術でもないことがわかった。

静かな緊張の中、木々の奥から小さな光が現れ、それがとても速いスピードで結界の前まで到達。大きな光になって、剣のような形となり、結界に突き刺さった。結界にヒビがはいる。
ちょうどリャクの詠唱が終わり、ナナリーを護るような小さく、ほのかな光の玉が彼女の足から天までゆっくり浮上し始める。リャクの天属性による守護魔術。詠唱が数秒であったため、中級魔術の支援系か、とテアは横目で見ながら剣を突くような姿勢で構えた。



「来る……!」



後ろでナナリーが連絡をとっている声を聴き流し、テアは駆けた。収集家の姿はまだ見えない。テアが駆けだしたのと同時にリャクは再び中級魔術を唱えた。
そして第二射。今度はさきほどより近くから同じ遠隔攻撃がされ、結界に当たり、崩壊した。パリンと、まるでガラスが割れるような音。そこからの破片はすべてナナリーが連絡をとりながら削除した。
結界が割れ、外側から人影が見える。テアは人影との距離を一気に詰めた。



「ずいぶんと好戦的だな、死神」

「あら。私の平和主義が建前だってあなたが一番知っているでしょう? 収集家さん。今日は何の用?」



テアの一閃を何らかの力で生み出した盾で防いだ人影――収集家は口元をニヤリとゆがませて笑った。