不老不死の生死



テアは産まれたその瞬間から異能者の「死神」として覚醒していた。テアを身籠った母は体調を崩したまま腹のテアを育てた。腹からでてきたテアは自分に触れた人を数日後に死に追いやる。察しが良かった母はかならずテアに直接触れないように手袋をして愛した。父も同じく。
しかし手袋をして何年も過ごせるはずもなく、テアに物心がついたときには両親を殺してしまっていた。
身寄りもなく泣きじゃくっていたテアをたまたま見付けたのがツバサだった。まだ組織のボスになる前……組織すらつくっていない時の話だ。



「さてと。君が会いにきたってことは"シナリオ"のことかツバサの話をしにきたんだよね?」

「それ以外に貴様へわざわざ会いに行く理由がないがな」

「で、どっち?」

「不死のほうだ。あいつが本当に死んでいるか否か。組織の中で、とくに諜報部の一部が混乱して仕事にならん」



ツバサの生死は不明だった。不死であるから死ぬことはあり得ないのだが、銃口を頭に向けて撃った自殺は紛れもなくツバサ本人が望んだこと。この場合は死んでしまうのか、生きているのかわからない。しかしその場面を目撃していたリャクとソラは彼が消えたところも見ている。
誰よりもツバサを心配していたテアをリャクが連れてきた理由がここでわかった。
リャクの気遣いでテアに声をかけたのだ。テアを無視してこの少年に話を聞きに行きそうなリャクが、だ。テアは素直じゃないなあ、と思った。



「ああ……、ツバサね。銃口を頭にあてて引き金を指一本で引くだけで死ぬならそれは不死なんかじゃないでしょ。それだけで死ぬことができたら苦労しないよ」

「そ、それってつまりツバサは死んでないって……!」

「そういうこと」



少年が頷けばテアは膝から力が抜けてへなへなと座り込んでしまいそうになったが、そこは少年がテアより一回り小さなからだで支えた。

おくれてナナリーの封術がこのタイミングで発動し、大きな四角い箱に入れられた感覚になる。壁は半透明。リャクが「思ったより早かったな」と呟いた。



「いい封術師を部下にもってるんだね。あそこまで封術師として開発したのは君の成果ってのもあるみたいだけど」

「いまはナナリーの話をしていない。奴が生きているのならいまどこにいるんだ?」

「ちょ、ちょっと待って。じゃあなんで灰みたいになって消えたりしたの!?」

「えーっと……じゃあ、まずはティアちゃんの質問から答えるね」