死神の少女




「ところで、お前は不死についてどこまで知っている?」

「? えっと、この場合リャクが言う不死っていうのはツバサ本人のことなのか異能のことなのかどっちかしら……」

「本人のほうだ」

「ツバサのことなら少なくともリャクより知っている自信はあるわ。異能のほうはリャクのほうが知っているのかも」



木々のない土が露わになった土地のちょうど真ん中部分で立ち止まり、リャクは腕を組んだままテアに聞く。水たまりを見ていたテアは我に返ってすぐに返答するとリャクはふむ、と顎に手を添えた。



「なら、“シナリオ”のことは勿論知っているんだな?」

「ええ……。彼が偽物だとも承知しているわ。それが今から関係あるの?」

「あるから聞いたんだ」



テアが見ていた水たまりをリャクも見る。すでに目をはなしていたテアはもう一度その水たまりをみた。リャクが話をしているときに目を逸らすのは必ず意味がある。なにかこの水たまりにあるのか、とテアは不思議に思った。



「今からあいつと同じ偽物を呼ぶ。ただし、これはツバサなんかではない。奴本体の偽物は複数いるらしい。そのうちの一人だ。名前も違うらしい。智将、といったか。オレは呼んでやる気はないがな」

「呼んでよ、自己紹介した意味がないじゃん」



リャクが言い終わり、水たまりに何かを言おうと口を開いたとき、別の場所から少年の声がする。一番に反応したのはリャクではなくテアだった。
金髪碧眼の、右手に杖を持った少年。着物を着ており、その表情はどこか楽しそうであった。



「初めまして、俺は智将。君がティア?」

「そうよ……初めまして」



なんの予告もなく現れた少年はテアに丁寧にお辞儀をすると握手のために手を伸ばした。しかしテアはそれを優しく断る。

テア・ジュラーセは異能者。さらに詳しく言うならば能力者に部類される。能力者のなかでも希少的に珍しいとされる秘密型能力者。世界に一つしかない特殊な異能をもつ。テアは生まれてからその異能に悩まされていた。
「不老不死」「収集家」など特殊な秘密型能力者には特殊な名前別名がつくように、テアにもその名はある。「死神」だ。彼女は死神と呼ばれて生きてきた。
テアの異能は触れた人間をすべて殺してしまうというもの。誰であろうと無差別に触れただけで殺す。テアがその強力な異能のコントロールをできていないため、それが普段のテアであり、誰かに直接触れることはできなかった。異能を意図的に扱う状況になればそれだけではなく念じただけで殺してしまったり、異能者の異能を殺し、発動した術をかき消し、発動したすべての異能が効かない、などの絶対的な力を持っている。

自分を唯一受け入れて、助けてくれた「不老不死」のツバサは「死神」とまるで対になるような秘密型能力者だったため、直接触れても何をしてもツバサには何の影響もなかった。テアがツバサを兄のように慕っているのは幼いころから無条件で何度も助けてくれたことでもある。血がつながった本物の兄妹のようだった。

テアはツバサ以外に触れてはいけないと、頭で、からだで強く記憶してしまい、たとえ同じ偽物であっても智将に触れてはいけないのだと思ってしまっていたのだ。