天属性、死神、封術師


支部の研究所になど、リャクは行っていなかった。補佐のナナリーと、ツバサを兄のように慕うテアをつれて「黄金の血」組織のアジトがあった森へ訪れていたのだ。森にはアジトの跡形もなく、奇妙に木がごっそり無くなった平らな土地が変わりにあった。
リャク一行はそこを目指して歩き進む。
先日、この地方は雨が降り地面は水を吸い込んで足元が汚れた。



「リャク様ー、こんなところになんの用があるんですか? 『黄金の血』はもういないのに……。……ティアちゃんを連れてくるってことはツバサさんか収集家関係のことだとは思いますけど……」



後半のほうの声は少しトーンを下げてナナリーは前をシャキシャキと歩く小さな背中に向かって問う。
容姿端麗で眉目秀麗な少女、テアはサラサラと絹のような金髪を風になびかせてナナリーへの返答を待った。



「大型当たりだ」

「そうですか。ティアちゃん、私はもしものときのために結界を張るから話には参加しないけどリャク様と一緒で大丈夫?」

「ええ、平気。私はリャクが怖くないから心配しなくても大丈夫」

「そっか。よかった。あ、そうそう。私はリャク様を終始監察するから後ろには立たないでね!」

「? わかったわ」

「阿呆!」



親指を立てて笑ってみせるナナリーの意図がわからないままティアが頷くとすぐにリャクが後ろを向いてギロリとナナリーを睨んだ。



「ナナリー、仕事をしろ!」

「すみませんー」



木々の間に開けた広い空間が見え隠れするようになり、ナナリーは詠唱の準備として白い紙に奇妙な文字が筆で描かれたお札を何枚か白衣したに着る着物から取り出す。着物の胸元にお札を仕込んでいたのだ。このお札はナナリーが長い封術の詠唱をするときに補正としてよく使用するもの。詠唱の省略をするための式に役立っていた。



「ではいってらっしゃい」



ぽっかりと開けた土地に数歩入ってからナナリーは立ち止まる。テアが「いってきます」と笑顔で返すとナナリーもお札を足元に並べながら笑顔で返した。



「結界って、もしかして収集家対策の?」

「そうだ。ここに天属性と死神がいるんだからな。収集家が嗅ぎ付けてもおかしくない。ナナリーほどの実力があればあいつも狙われてしまうしな」

「ふふふ、ナナリーが心配なのね」

「な!?」

「その言い方、なんだかナナリーを大切に思っているように聞こえたけど……、違った?」

「う、うるさいわ!」



お前といると調子が狂う、とリャクはそっぽを向いてしまった。テアは苦笑をして「素直になればいいのに」と呟いた。