重力操作能力





「1対1、先に武器から手を離した方が負けにしましょう」

「負けたら勝った方の言うことを聞く……、いつもと同じでいいよな」

「はい」



ラカールたちの痴話喧嘩をなんとか抑え、訓練場で解散となった。ちなみに喧嘩を押さえたのはアイだった。
いま、ラカールとチトセは訓練場を出ていき、レイカも仕事を済ませたらまた来る、と言って出ていった。レイカの今日の仕事は少ししかないらしく、すぐ来るそうだ。まあ、レイカ自身は訓練場の出入り口に置いてあるベンチに座っているようだ。携帯端末機器での仕事らしい。なにをしているか詳しいことは知らないんだけど。

シドレとワールが手合わせをするようで、いま訓練場の中央にいる。彼らは訓練用の武器ではなく自分達の使い慣れた刃のある武器で訓練するらしい。ワールは刀、シドレは槍だ。槍はどうやら折り畳み式らしい。それでも丈夫だからシドレが愛用しているんだとか。



「もし武器で怪我でもしたらどうするの? 深い怪我」

「まあ、そのときは大人しく医務室だな。でもあの二人は互いに怪我をしない訓練に慣れているからそんな心配はいらない」

「実践で役に立つの?」

「十分」

「へえ」



シドレとワールが互いに「宜しくお願いいたします」と挨拶をしたところで訓練は始まった。
まずはワールの抜刀が先だった。シドレが後退しながら槍の柄でガードする。続けてワールはシドレを攻め、壁際まで追い詰めると今度は逆になった。シドレの異能だ。
重力操作能力。
本来は戦闘に不向きな異能であるはずだ。どちらかといえば拷問など苦しめる類い。もしくは1対多数。

シドレはワールの肉体にあった重力の方向を変換しワールを向こう側の壁へ飛ばした。ワールの背中は壁に叩き付けられ、身動きができないようにさらに重力が加算される。シドレは追いかけるように自身の重力の方向を換えた。



「シドレってさ」

「ん?」

「声とか凄く女の子らしいし、見た目とかも、どっちかって言うと非戦闘員側かなって思っててあんまり期待してなかったんだけど、動くね……」

「遠隔操作で敵を殲滅するタイプの異能なんだけど、シドレ自身は接近戦が得意だからな。メインは武器による攻撃って感じで、不意打ち、補助に異能を使ってる。ちなみにあいつ、本気で怒るとブラックホールつくるぞ」

「ブラックホール!?」

「ああ。もちろん小型だけどな。星を破壊されたら困る」

「重力操作……」



恐ろしい異能だな、とひたすら攻防を続ける二人を眺めた。