もとの視点




「重っ……!!」

「まだまだ!」



訓練用の拳銃でチトセを殴ろうとしたのだが、彼の腕にガードされてしまって狙っていた場所にあてることはかなわなかった。勢いで一歩さげたチトセに追いうちをかけんとばかりにオレは比例して一歩踏み出す。
わりと広いんじゃないか、と思っている訓練場にはオレとチトセ、そしてそのパートナーであるラカールとレイカがだけの四人だけがいた。オレとチトセが手合せしているのをラカールとレイカが見ている。レイカとラカールの「がんばってー」という応援にいちいち答えるチトセは隙があるようで、ない。木刀を一本だけもっているあたり、まだまだ本気をだしていないようにも見える。チトセは剣を二本持つ二刀流。一本だけの訓練なんてまだまだだな、と思う。



「そういえばソラちゃん」

「『ちゃん』つけないでよ。気持ち悪い」

「そういえば、ソラ」

「なに」



追撃のためにチトセへ近寄ったオレを振り払うように木刀が迫る。どうしたってオレの目にははっきりと見えているため、すぐに回避。膝を折って伏せたオレにチトセは連続で踵落としを仕掛けたが拳銃を向けるとすぐに離れた。
この訓練用の拳銃は木刀と同様に玩具。銃弾は込められておらず、かわりにプラスチックの威力がかなり低い弾がはいっている。といってもエアガンのようなおもちゃよりは性能がいい。そりゃ訓練用なんだ。小学生の子供が遊ぶようなおもちゃでは困る。



「ルイトたち助けに行くんだろ? それっていつだ?」

「ああ。なんか今リャク様が別のところにある研究所に行ってていないみたいでさ。レイカもいくつもりなんだけどリャク様がいないからいけなくて」

「へえ。だからか。急に手合せしようなんて言ったときは驚いたけど……そういうことか。おとなしく待つなんてできなくて体うごかそうってか?」

「……そう、だね。チトセなら暇そうだと思ったんだよ。ラカールに睨まれつつナンパするよりいいでしょ。レオを誘おうと思ったんだけどついてくるシャトナが怖いし」

「ああ、シャトナはソラにベタベタだもんなー。……羨ましい。痛ッ!!」



拳銃でチトセを狙った瞬間、彼の頭に中身が入った缶ジュースが激突した。
ラカールだろう。チトセを睨んでるし。チトセも懲りないな。ラカールという彼女がいるのに、それでも女好きは止まらず他の女性に目を向けてばかり。そりゃラカールも怒るよ。ほら、ラカールの隣にいるレイカが怯えて目に涙をためている。
あまりに日常茶飯な光景でオレは溜息すら出なかった。