追跡魔術
「ウノ様?」
「呼んだか?」
「ひあっ!?」
レイカがよく考えもせずウノを呼ぶと、いつもより少し低い声で返事がきた。予想外のことでレイカは裏声をだして驚いた。その様子にサレンはくすくすと笑う。
「……ソラは眠ったのか」
「は、はい。あの……、クラウンは……?」
「逃がした。怪我は負わせたから暫く出てくることはできないはずだ」
「……そうですか」
「この島には私たちしかいないようだ。一旦帰ろう」
「え!?」
「?」
「どうかしました?」
頭上から現れたウノは手足から綿がはみ出ていたがとくに困った点はないようだった。イライラして怒っているというのは声音だけでレイカとサレンは察している。
「ジンたちは!? すくなくともシングとミルミはいるはずです! 私、会いましたよ!」
「……レイカ、私の魔術で調査はしましたが……。このブルネー島にはレイカとオリジナルの他にウノ様と私しかいませんよ」
「そんな……。でも、私、確かに……」
レイカの顔は真っ青だった。 レイカの記憶が間違っているという可能性は0だ。完全記憶能力者であるレイカが記憶を忘れることはない。時間軸も完璧。記憶に関して、レイカが間違うことは一切ないのだ。
「……もう一度調べてみますか」
今まで張り付けていた笑みが消え去り、サレンは白衣を翻して後ろを向いた。数歩あるいてレイカたちから少し離れたところで詠唱を開始する。 ウノはソラの腹辺りにちょこんと座り、ソラの様子を気にしていた。
サレンの空、地属性を同時に使った追跡魔術。 もともと地属性には追跡魔術が中級で存在するのだが、サレンの場合は空属性の魔力を混ぜて使うオリジナルの追跡魔術。ミスはないと言われている。 封術よりも詠唱が短いにしてもサレンは中級魔術を詠唱しているため、術の形成までは少し長かった。 詠唱中はサレンの姿が歪んで見えるほどで。これもサレンのオリジナル。詠唱中に妨害が入らないようにと空間を歪ませているとレイカは聞いたことがあった。
レイカはサレンの調査結果を待つ。詠唱が終わってもサレンが調べている。
「……いませんね」
「どうして……」
サレンの結果にレイカは耳を疑ったが、肩の力を抜いて眉の端を下げた。
「レイカ、もしかしたら……。いえ。帰りましょう」
「でもサレン!」
「オリジナルを診察してもらわないといけません」
「……!」
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