ふわふわと沈む
頭がぼんやりしている。
そこら辺にあったベンチはいまやウノ様の武器として利用されており、本来の機能は皆無。魔女の呪文とベンチがぶつかっている。ウノ様は容赦無く、いつもの馴染みがある口調はどこかへいってしまい、今や口の悪いボスだ。低い声が手伝って威圧感、迫力のある罵倒が聞こえてくる。レイカはビクビクしていて面白い。
目の前に盾として存在するベンチは最初のウノ様が魔女への攻撃。ウノ様がこのベンチを武器として使わないのはオレたちを守るためだろう。
(……というか、そろそろ意識が……)
何も考えられないくらいぼぅっとし始め、やばい、と直感した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あ、あれ、ソラ?」
レイカは自分の足にふと重みを感じてそこを見てみた。ソラの頭が自分の足を膝枕のようにして乗っていた。意識を失ったようで、生きた心地がない瞳はまぶたの奥。レイカは怪我に衝撃が加わらないよう丁寧に動かし、ソラを仰向けにして寝かせる。
「……ど、どうしよう」
「そのまま安静にさせていただければ良いですよ」
「!」
レイカが独り言をぽつりと呟いた。それに反応した声に吃驚したレイカだが、すぐに解れた笑顔になる。彼女の仲間だ。レイカと同じくリャクの部下。
「やっぱりサレンだったんだね。ウノ様を連れてきたの」
「これ、給料に入らないんですよ。あとでリャク様に抗議しなければいけません」
髪がぴょんひょんと外側にはね、ときどき銀縁の眼鏡が太陽の光を反射させていた。 サレン。 リャクとナナリーの部下であり、レイカの上司。いつも薄い笑みを貼り付けている。リャクや一部の研究員のように部屋に籠って研究をしているのではなく、屋外に出ていることが多い。組織の建物内にいてもなかなか遭遇しない人物だ。 サレンは空間移動の属性をもつ魔術師だ。ミントが行方不明であるいま、長距離を移動する手段としてサレンの魔術が利用されている。
「オリジナルさんは大怪我をしていますね。早く治療しないと……」
「あ、あの、ソラは大丈夫かな……。血が、たくさん……」
「レイカ、大丈夫です。オリジナルにはリャク様の魔力が施してあります。それにナナリーの封術だって。大丈夫です」
「……そ、っか……」
「ウノ様は?」
「え? そこでクラウンと……、あれ?」
レイカが指をさすベンチの向こう。そこには魔女と戦っているはずのウノの姿がなかった。
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