ウンディーネ



男性の低い声だ。
それだけ認識した直後、魔女の頭上から大きな物体が落下してきた。轟音とともにそれは地面に突き刺さる。
魔女は間一髪で回避したらしく、物体の向こう側から「危ないじゃない」と不機嫌な声がした。呪文は中断したようだ。



「これ、オレがさっき座ってたベンチじゃん……」

「こ、こんな重いものを真上から落としたの?」



どんな重いものでも持ち上げる異能をもつジンがやった……わけがないだろう。ジンにとってベンチを投げることが容易いことだとしても真上から落とすことはできない。彼の性格なら、異能なら、まっすぐ飛んでくるはずだ。
いったい誰が……。



「大丈夫か?」



低い声。馴染みのある声だ。
ああ、知ってる。この声は……。



「ウンディーネ様……」



振り向かず、独り言のように小さく呟いたのだが、彼には聞こえたらしく「いまはウノ、だろう」と苦笑混じりの声で返してくれた。



「あ、ソラ」



レイカの間抜けた声で隣を見れば、彼女は短剣を握っている。短剣はオレの手から抜けたらしい。



「何があったのか、あとで話してもらってもいいか?」

「はい、そのつもりです」

「よろしい。では私はもう少しお茶目になろうか」



ウノ様は人形の手でオレの頭を撫でるとレイカから短剣を借りた。ふわふわ、と不安定に浮くよりも安定して宙に浮く短剣と共にウノ様はベンチの向こう側に行った。
それからの音が激しい。
たくさんの轟音がなり、それが原因で島が沈んでしまうのではないかと不安になってしまう。

そんな中、オレは右の袖を破り、レイカの手伝いで止血をすることになったが、効果はみられない。
痛みはすでに消え失せ、右腕の感覚も麻痺してなくなっている。
何度も意識を手放してしまいそうになってしまうが、なんとか堪える、ということがなんども続いていた。



「ソラ、大丈夫?」

「……ああ……、うん」

「え、えっと、右腕は痛い? 左腕は……?」

「右腕はもう感覚がないかな。左腕もいつのまにか痛みは引いてて……」

「そ、そう……なんだ。えっと、はやくミルミを見つけて止血してもらわないといけない、よね」

「……そうだね」



ああ、やばい。本格的に意識を手放してしまいそうだ。レイカじゃオレを抱えるなんて無理だろう。まあ、ウノ様なら平気かも知れないが気を失った人間が浮いているのもなんだかシュール。
意識を保たせたまま帰りたい。