Disturbance



右腕の感覚が麻痺している。傷口は熱く、痛い。右手の指先さえ動かなくなっていた。
それでも容赦なく短剣は振り上げる。
抵抗する術がない。
せいぜい魔女を睨むだけだ。



「もっと苦しむのよ」

「ぶざけんな……!」



冷たい笑みをする魔女はその短剣が振り下ろされたのを見ながら機嫌が良くなっていた。
今度は足か、とどこか冷静なオレがいた。異能のせいで勢いよく振り下ろされる短剣がゆっくり見える。



「――だめ!!」



そのとき、ソプラノの高い声が、かれた声が響いた。オレの左手が暖かくなる。その正体は頭を横に向ければすぐにわかった。



「レイカ……」

「い、いま短剣を取るから!」

「レイカ、危ないから早く離れて。魔女に」

「離れないよ! 友達を見殺しにするなんて私にはできない!!」

「……っ」



レイカは短剣を強く握り締めるオレの指を開こうとするが、握力はオレの方が強い。指は少しも動かずに、しまいにはレイカはせっかく塞がった肩の傷口が開いて血がまた流れるのも気にせず、一生懸命に手を開かせようとしていた。



「……」



レイカはオレを死なせなくない、と、言う。
オレにはない感情があるんだ。
レイカの行動が理解できない。

……ルイトもそうだ。レイカだって、どうしてオレなんかに一生懸命になるのだろう。どうして。
オレが死ぬと悲しいからなのか。さみしいからなのか。
どうしてもわからない。



「あなた邪魔よ」

「ソラを殺すんだったら私はクラウンの邪魔をします!」



クラウンは、たしか魔女の名詞。魔女の名前かどうか、正直オレは疑問に思っている。

魔女はオレを助けようとするレイカの態度が気に入らないようで、呪文を唱えようと口を開いた。レイカはビクッと肩を震わせたが、逃げたりしないで短剣奪うことに必死だった。



「レイカ、離れてって」

「さっきシングとミルミに会ったの。ルイトとジンを捜してるんだけど、きっともうすぐ来るよ」

「レイカ」

「だっ、だから大丈夫だよ!」

「レイカ、オレ怒るよ」

「ひ! で、でも私、自分だけ逃げるだなんて……!」



魔女を見てみればまだ呪文を口ずさんでいる。下級魔術ではなく中級魔術を唱えているのだろう。時間はある。とにかくレイカを退かせないと。彼女が怪我をして泣く人はいるんだ。

どうにかしようと頭に働きかけようとしても両腕の痛みが邪魔をした。



「失せろ魔女」



不意に、低い寒気を伴う声が辺りを支配した。