Sharp pain




「なんでこんな所にいるわけ……、クソ魔女」



オレの正面に立っていたのは、後藤さんたちがいる方の世界に置いてきたはずの魔女。世界を渡る魔術なんてこいつにはないはずだ。どうしてこんなところにいるのか、と睨んでいると魔女は驚くほど優しい笑みを浮かべて座り込んでいるオレと目線を合わせた。



「口のきき方がなってないわ」

「知るか」

「そんなことを言ってもいいの?」



オレの頬に右手をそっと添えた魔女はその状態のまま続きを口にした。



「あなたの心臓はいま私の中で動いているようなものよ。口のきき方を考えた方がいいわ。握り潰すわよ」

「残念だったね。魔女なんかにくれてやるプライドは持ち合わせてな、ぐ……ッ!」

「このまま"呪い"でソラを絞め殺すなんて、私にとって容易いことよ」

「馬鹿じゃないの……、オレが死ぬ前に、死ぬのは、お前だ!!」

「っ!」



痛みが走る左腕を持ち上げて頬に添えられた魔女の細い手首を掴んだ。そして目一杯に力を込める。魔女は驚いて手を引っ込めようとしたがオレがそれを許すはずがない。腕力の差は歴然としている。魔女の白い手を地面に押し当て、その手を足で踏みにじった。魔女は悲鳴を堪えるが、それに対して込める力は強くなる。



「口だけじゃなく、態度もなっていないようね……!!」

「お陰さまで」



しまっていた短剣を右手に握り、魔女の背中に振り下ろした。血が魔女の服に滲み、短剣を引き抜いたときには血が溢れて出てきた。続けて短剣で魔女を切ろうとしたとき、魔女はオレの方を向いて笑った。



「"手先を狂わす貴方に対象の恐怖を与えよう"」

「ッ」



魔術だ。しかも死属性――。すぐに魔女から離れてみたが、すぐに右手が痺れて力が入らなくなった。かと思えば刺すような痛みが襲い、右手のところどころから血が流れてみるみるうちに真っ赤に染まってしまった。



「島に与えた恐怖を全部味わいなさい!!」



魔女にも怪我はあり、汗をかきながら叫ぶようにいうとまた呪文を唱えた。
すると左手が勝手に動き、右手の短剣を奪った。
短剣はまっすぐに二の腕の中へその刃を沈め、一直線に右手首まで下ろした。左腕にある"呪い"のような痛みとはまた違った斬る痛みは鋭く、一瞬何をしたかわからなかった。理解したとたんに痛みは走り、止まることなく血は流れ、足元を赤一色に染めていった。
あまりの痛さに叫びたかった。
まだ服が乾いていないせいで海水が傷口に染み込み、心臓が鼓動する度、生暖かい血は近くにあるものすべてをのみこんでいった。