生存者




はは、馬鹿みたい。

もう誰も生き残っていないのに。

どれだけ謝罪したって意味がないのに。


いつしか謝罪することを止めてオレは自嘲した。手に力が入る。は、と息を吐いてから立ち上がった。
オレがいくら謝ったって聞こえるわけがないんだ。
どう足掻いたってオレは悪役だ。人をたくさん、自分だけの我が儘で殺した。馬鹿みたいに謝罪しても罪悪感を感じても、もう遅い。若干の寂しさはあっても悲しいなんて微塵も思っていないんだから。

太陽は天辺にある。昼間だ。
日差しは暑く、放っておけばこの濡れた服も乾くだろう。持ってきていた拳銃は水に浸っていて使い物にならない。辛うじて短剣は使えた。鞘のなかに水が入っていなかったらしい。



「……ルイトたち、ここにいるのかな。適当に歩いて捜してみるか」



オレだけブルネー島について、他のみんなだけ組織の建物にもどった、だなんて変な話はないと信じたい。もしそんなことがあればオレだけ仲間外れじゃないか。



「高台とかにも行ってみようかな」



びちょびちょに濡れた髪をほどいて肩に流しながら歩いていくと足跡を発見した。ところどころ薄れている。時間が経ったものなのだろうか。ルイトたちの足跡だというのは考えにくい。でもこの島に人が立ち入るなんて。
たしかブルネー島はウノ様に所有権があったはずだ。勝手に立ち入るなんて……。ここに入るための橋は壊してあるから、船か空間移動系の異能がないと立ち入れない。

オレがいない間に誰か来たのだろうか。
……ここで考えても答えはでないだろう。とりあえず後を追ってみればなにかわかるかも知れない。ルイトたちも気になるが、まあ、大丈夫だろう。捜すのが面倒なんじゃない。信頼してるんだ。
自分に言い訳をして足跡を追うことにした。

地面はコンクリートではなく土でできているから足跡は辿ることができる。幸いにも固い地面のところは歩いていないらしかった。

足跡はそのまま波打ち際を進み、そこでプツンと途絶えた。もう続く足跡はない。



「え……。もしかして、これって空間移動系の異能者? ……ミント、なわけないよね……」



行方不明で死亡扱いになっている空間移動能力者、テレポーターのミントを思い出した。記憶をなくして、いきなり組織に入れられ、右も左もわからなかった頃に知り合ったのが彼女だった。砕けた敬語で明るく接する彼女は嫌いではない。「黄金の血」と戦ったあと行方不明になり、多量出血のあとから死んでいると憶測されたが……。
この足跡、いくらできたばかりではないと言ったって、せいぜい2、3日くらいのものだ。
テレポーターなんて珍しい異能ではないのだからミント以外のものと考えられるし、空間移動だなんて魔術でもそれらしい属性はある。それに、オレと同じ暗殺の影操作能力のシャトナだって短い距離なら空間移動が可能だ。ミントと決め付けるには条件が足りない。

後ろを向いていままで辿ってきたあとを見ながらため息をついた。