溺死




こぽこぽと水の中で泡が浮かぶような音がする。ズッシリと体が重い。それなのにフワフワと浮いているような感覚があった。……息ができない。
苦しい。

この感じ、知っている気がする。
重たいようなまぶたを開けるとそこは一面の青。頭上にいけばいくほど明るくなり、そこは眩しい。



「……っ!」



ここ、海の中だ。

なんでこんなところにオレが!?
いや、そんなことより今は酸素を吸い込むために早くあがらなければ。
ザッと見渡せばしたの方に魚が見えた。足場が見えないということは、ここは深いのだろうな。見たところ、とくに気になるところもなかったから手足を動かして泳ぐ。海水を含んで服が重かった。

島生まれでよかった。
昔から水遊びをしていたお陰で肺活量には自信がある。息が出来なくて苦しいのだが、意識を手放すほどではないのだ。



「がはっ……!」



陸に足がつくとすぐに立ち上がろうとしたが、上手く力が入らず倒れてしまった。
体は酸素を求めており、口から吸い込めば咳き込んでしまった。



「ゲホゲホ! ……ここ、どこ……、!」



膝をついて起き上がってみた。
重いコートを脱ぎ捨てて陸を見てみると、足場は砂浜出はなく陸の方にある土であることに違和感を覚えた。道を歩いていれば嫌でも目にはいる雑草。こんなものが海の波打ち際に生えるのはおかしい。
目線をまっすぐ、斜め上に持っていけば民家が見えた。ただしボロボロ。人が住んでいるとは思えない。民家などの建物の間には植物が生えている。



「……ぁ」



枯れた声。
……ここ、見覚えがある。知ってる。懐かしい。

記憶の中を探ればすぐに答えが出てきた。

人が住んでいるなんてことはありえない。民家のほとんどは家の中が見えるほど。表面は焦げたように真っ黒だ。



(ここ、ブルネー島……だよね)



知ってる。ここ。
ここで深青事件を起こした。
ここでオレは、僕は、海に……。

砂浜がないのはきっとこの島が沈んでいるからだ。この島の生き残りはオレだけ。オレだけの存在では島を存続させるなんて不可能な話だ。
記憶の中の映像と合わないところはあるが、それが島の変化。ほとんどは変わりない。



「……ごめんなさい……。ごめんなさい」



膝から力が抜けてその場に座り込んだ。謝罪の言葉をただ呟く。

冬でも暑い日差しがオレを責めるように降り注いだ。