不器用な少年




「たったいま傷口が塞がったばかりです。レイカ、起き上がらないでください」

「……あ、えっと……、ごめんね」



レイカはミルミに肩を押さえ付けられて起き上がれず、上半身を起こそうとしたことについて詫びた。オレもレイカのもとへ寄ろうとしたとき、オレの前をものすごいスピードで人影が通って止まった。このスピードは車にも勝るんじゃないかな。
人影の正体であるジンはレイカの頭の横に手をつきながら叫ぶように言った。



「おい、なに怪我してんだよ、のろま!!」

「あ……、う……」

「つーか怪我ごときで気絶すんなよ情けねえ!! 強度が低すぎだろお前のからだ!!」

「ご、ごめんなさ……」

「ありえねえ。まじありえねえ。なんなんだよお前! 敵の攻撃くらい避けろよ! つーか防具でもつけてろよな!! 馬鹿じゃねえの!?」

「うぅ……」



ジンはひたすらレイカを罵っていた。口から止まることなくレイカの「悪いところ」がスラスラと吐き出される。レイカは眼帯をつけていない左目にじわじわと涙をうかべ、ジンの鬼のような形相に震えていた。



「まったく、不器用だな。心配したならそういえばいいのに……」

「そうですよね」



シングは苦笑混じりに目を閉じて口元を緩ませて、レイカの止血に使った血だらけのハンカチを洗おうとしたミルミが同意した。
スラスラと暴言、もといジンの心配事は口から止めなく流れ続ける。ルイトがジンを宥め、レイカは今にも泣きそうに。



「……ぷっ」



どこかで見たことがあるような光景だ。いや、過去に何度もこの光景を見てきている。レイカが怪我をしたのではなく。ジンがレイカを責め、ルイトが仲介に入り、シングとミルミが第三者と言わんばかりにルイトたちを見ているというこの光景が。
力がまったく入っていなかった頬に、少しだけ力が入った気がした。



「ソラ、笑ってないでレイカを慰めろ」

「……はいはい」



ルイトの疲れ気味な救援を受けて、オレはレイカに泣き止んでもらうために取り合えず飴をあげて口説こうとしたらルイトに「違うだろ!」と言われた。まあ、冗談はさておき、レイカに怪我の状況やらを聞きながら慰めることに。
レイカはすぐに落ち着いたが、ジンのほうはルイトに八つ当たりをしていてルイトも眉間にシワを寄せていた。



「レイカ落ち着いた?」

「うん。ありがとう、ソラ」

「いや。そんなことよりさ、レイカは大丈夫?」

「大丈夫だよ。ミルミのおかげで。……あ、それよりも何か変化はない?」

「変化って……、隣の部屋がなんかブラックホールになったとか?」

「ブ、ブラックホール……? た、たぶんそんな感じ」

「あの部屋がブラックホールになったよ。あ、べつに吸い込まれるとかそんなんじゃないけど」



オレがつい先ほどルイト、シングと見た部屋を指で指せばレイカはヨロヨロと立ち上がってその部屋に向かって行った。



「……どうしたの?」

「たぶん、そのブラックホール……、早くしないとなくなって帰れなくなっちゃうかもしれない……」