真っ黒




ミルミはレイカの怪我を懸命に治しつつ、口を動かす。



「隣の部屋を見てください」



隣の部屋?
オレが目を向けた方向にルイトとシングの視線が行く。隣の部屋は洋式だ。レイカを見守っているジンは「はやく見ろよ」と言わんばかりに目付きの悪いその目でオレたちを見る。オレはドアの前まで歩き、そのドアノブに手を伸ばした。ガチャリといつもより重い音を聞きつつ目の前の風景に驚かされる。



「……これは」



すぐ後ろで、シングの驚いた声がした。ルイトの声はしなかったが、息を飲む音は聞こえる。
この洋式の部屋は姉の部屋だった。家具がたくさん置かれて生活感のある部屋だった。
今は壁も窓も床も家具だってない。その部屋に置かれていたものすべてがなくなり、真っ黒に塗り潰されていた。それはただ延々と広がる黒で、終わりの見えない闇だ。

試しに一歩踏み出そうとしたらルイトに怒られた。



「それはリャク様の魔術によるものだと思います。エマの登場を察知して、早急に引き返すようにと、レイカを媒介にしたんだと思いますよ」

「なるほどな。天属性なら別世界の異変も察知できるかもしれない」

「え、シングは天属性について何か知ってるの?」

「いや、なんにも知らんぞ」

「……」

「まあ、とにかくだ。レイカの傷が塞がってからここに落ちようか」

「……落ちるの?」

「なんだ、怖いのか? だったらみんなで手を繋いで『いっせーの』で落ちればいいだろう」

「怖くは、ないんだけど、ただ、未知の場所に踏み込むなんて」

「若いんだから何事も挑戦だ」

「……そう」

「ああ」

「ところで回復ってどのくらいかかるの?」

「傷口を塞ぐだけならあと少しだ。不死のツバサみたいに異常特化しているわけではないんだ。一瞬で傷が塞がるなんてことはなかなか無いさ。仕組みがまったく違えど結果が同じようになるのはカノン様も同じだな。リャク様とウノ様はわからんが」

「そうなんだ」



バタンとドアを閉じた。いつのまにか、隣にいたルイトはジンと話をしている。たしかルイトとジンは幼馴染みだとか。ジンはレイカに好意を抱いているようだし、話すことはあるのだろう。



「……うぅ」

「動かないでください」



気が付いたらしく、レイカのうめき声がしてそちらを見ると、レイカの左目がパチパチと姿を見せ始めた。