White like snow



「生憎、いまは貴様に付き合っている暇はないのでな」



いつもより低い声だった。シングの、どこからか溢れでた威圧感にオレは何も言えなくなった。
本当は邪魔だ、とか言いたかったのにそれは喉までで、口から出ることはなかった。
シングから発せられたのは威圧感だけではなかったのだ。
殺意。
……それもそうだろう。シングだって魔女を殺したいに決まってる。シングはミルミと運命共同体のようなもの。自分自身が死にたくないと思う以上に彼はミルミが自分のせいで死ぬのが許せないのだ。そんなこと、記憶を探らなくても雰囲気でわかる。確かにシングとミルミがそのことで喧嘩したのが過去にある。結論からいえば結果は保留となり、仲直りはしている。



「そんな私を殺してやるっていう血のような真っ赤な目で言わないでくれないかしら。説得力の欠片もないわよ」

「……ああ、殺してやりたいさ。今すぐに貴様の喉を切り裂きたい。だが欲求に忠実な人間ではないのでな」

「貴方のどこから理性が現れてるの? 貴方の"呪い"は精神を蝕むはずよ。……まあ、私がいまここで"呪い"を促進させても良いのだけれど」



長いまつげによる影が魔女の瞳を多い、厚い唇が弧を描く。憎たらしくてたまらない。引き金を引いてやるか、押し倒して殴ってやろうか。シングが前にいてもなお殺意は収まることを知らない。
その白い肌の下にある柔らかな肉に弾丸を埋め込んでやりたい。中から溢れる甘い血の香りをぶちまけろ。



「だめだ、ソラ」

「……」



拳銃をもつオレの手を上からルイトが包み込んだ。オレには一生できないであろう透き通る綺麗な目が、瞳が、オレの顔をうつしだす。ルイトの白人らしい白い肌は薄い金髪は青緑の瞳を演出するのにちょうどいい色で、吸い込まれてしまいそうだった。一瞬のうちにルイトの瞳に目を奪われたオレはすぐに顔をそらす。ルイトにはオレしかうつっていなかった。ルイトの視界はオレが支配していた。この、殺意ばかりが渦巻く自分の顔が。



「……ごめん……」



どこを見ればいいのかわからなくなってオレは地面を見ることにした。拳銃への力は弱くなり、頭もだんだん冷めてくる。
いや、魔女を視界に入れてしまえば殺したいという気を思い出させるのだが、ルイトやシングがいう通り、ここで殺し合うのはまずい。用も済んだことだし、もとの世界に帰らないといけない。それにレイカが心配だし、シングがミルミと別行動をしている時点で戦闘はできるだけ避けるべきだ。

シングは魔女とエマを無言で睨んでからルイトと目を合わせた。
ルイトは腰に吊っていた矢の入った筒に手を突っ込むと中から小さな玉を取り出して、手のひらからそのまま溢した。
エマが魔女を守るように前に出たのが確認できた。
玉が地面と接触したとき、カッと強く白い刺激が目の奥で感じられた。