魔女



呼吸って、どうやるんだっけ?
まばたきってどうやっていた?
立つって……何?

ぐわんぐわんとかき乱れ、意識がどこに向いているのかわからない。
背後からした声をオレは知っている。
頭の中がチクチクしてて痛いのか痒いのかわからない。
この声の正体は直感でわかっていた。
沸々と浮かび上がる憎悪、嫌悪、苛立ち、不安、殺意――。

思い出した記憶にも根強く存在し続ける彼女。

殺したい。
殺したい。
殺したい。
殺したい。殺したい。
殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。

だめだ、冷静になれ、落ち着け。
深呼吸を。深呼吸を。

深呼吸ってどうやるの?



「ソラ!」



ルイトの怒鳴るような叫ぶような悲鳴のような声にはっと我にかえった。
呼吸もまばたきも立つことも深呼吸だってわかる。オレは身の危険を感じてすぐにルイトのいる方にいった。直後、オレの頭があった場所をエマの操った血が大きな針を型どったまま通過していた。あのまま当たっていたらいくら液体といえど頭をぶち抜かれていただろう。水だって木材などをきれる時代なんだし。



「大丈夫か、ソラ」

「――魔女」

「ソラ?」

「なん、で、魔女が……」



ルイトとシングの側に回避して気がついた。

オレの背後にいた彼女を。

あれは魔女だ。

オレに"呪い"をかけた張本人。

シングに"呪い"をかけた張本人。

さんざん苦しめて、オレを殺そうとして。

なにより。

なにより、オレが殺すはずだった姉を殺した張本人。



せっかく、人が死ぬ悲しさを知れると思ったのに。人が死ぬ喜びを知れると思ったのに。



「あいつ、たしかブルネー島でオレが殺したはずなのに……なんで生きてるの……?」

「エマ、ご苦労様。……私が生きている理由が知りたいのかしら。答えは単純よ。あなたが私を殺せていなかっただけ。そして私はあなたを殺せていない」



美しく、魔女は笑った。

魔女が生きている。
拳銃を握る力が強くなり、殺意もそれに比例した。
いますぐ引き金をひいて殺してやる。死ね、死ね、死ね。



「まさか私もあなたが生きているなんて思ってもいなかったわ。殺し合いをしましょう?」

「――」

「断る」



オレが殺意をはっきりと魔女に向けたとき、オレの前にシングが背をむけて立ちはだかった。