海と空
ルイトと再会してから短い期間にたくさんのことがあった。実際の期間は1ヶ月と少し。それなのに、その間は"呪い"が勢いを増してオレを蝕み、いままで姿を現さずおとなしくしていた収集家が動きだし、死神奪還のため風の組織――カノン様の組織――と水、炎の組織――ウノ様とツバサの組織――が対立、裏切り者疑惑、魔女が襲撃してきてオレの右腕が一時期なくなったり、ツバサが行方不明になったり、クローンを瀕死にして回収するためにシングとミルミのふたりと戦ったり、魔女が初めて仲間を引き連れてスクールジャックを行ったり。最後には集会でツバサはボスを辞めるだとかリャク様がカノン様を裏切り者だと暴いたりするなどもあったようだ。オレには直接的な関係はなく、そのときはちょうどブルネー島にルイトたちと行っていた。魔女と接触し、戦闘になり、オレは……。……、オレは異世界に消えた。リャク様があらかじめ仕掛けていたらしい、オレがブルネー島の土を踏んだら異世界にとぶように。詳しいことはわからなかったが、それが"呪い"からの死を遅らせるのにちょうどよかったのだろう。なぜリャク様が、とも思ったが、恐らく犯人はウノ様だろう。
ルイトたちの目の前でオレは消えた。
オレはリャク様の補佐に記憶を封じられ、後藤さんと雄平の元へ行くことになる。
一般人だったオレの親友は裏社会を覗いていただけだったのに、足を踏み入れてしまうのだが、それを止める人はいなかった。
さっさと死ねばいいのに。
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オレはエマという少女に銃口を向けていた。 目の前のセーラー服を着た目付きの悪い少女がエマだということはルイトから聞いている。この日当たりの悪いトンネルに来るまでにエマについていくつか情報を貰った。 魔女の手下かなんなのかよくわからないが、魔女の仲間でシングを嫌っているらしい。もちろん異能をもっている。能力者で流血操作。『黄金の血』の明は鉄操作の力があって血も操れたはずだ。鉄操作は案外珍しい部類の異能。やろうと思えば血液中の鉄分さえ操り人を殺せるらしいが明はしなかったな。 エマはそんな鉄操作とはちがい、流血。操れるのは血だけだ。
「レランス……」
「だからヒーレントだって」
オレが引き金に添えた人さし指の力をいれ、エマが避けようと動いた瞬間、胸騒ぎがした。 ドン、ドンと心臓が強く鼓動する。
「あら」
後ろから鈴を転がすような声。 ここにはオレとルイトとシング、エマしかいないはず。 ――振り向くな。 嫌な汗が頬をなぞった。 ――振り向くな。 引き金に触れていた力が抜けて手を離しそうになる。安全装置を外したまま落とし、自分の足を撃ってしまったことが過去にあるため、拳銃から離したりはしないが人さし指に力は入らなかった。 ――振り向くな。 最悪だ。 ――振り向くな。 ルイトやシングが何か言っているが、耳にその声が入っていても言葉は理解できなかった。 ――振り向くな。 やけに心臓がうるさい。
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