試行錯誤




「リャク様?」



陣の前で眉を寄せて考え込む様を見せるリャクにナナリーは首を傾げた。リャクは自分を心配するナナリーを見て、何も返事をせずまた考え込むように腕を組んだ。



「どうかされましたか?」



ナナリーは持ってきたお茶をテーブルに置いてリャクを視界にいれる。リャクはため息を吐いた。



「いつも魔女の後ろにいる流血操作が現れてレイカが負傷した」

「え!? エマ・サメントですか!?」

「そうだ」

「ということは魔女がいる可能性が」

「否定できないな。最近大人しいとは思っていたが……。オリジナルは精神的にまだ不安定だしな」

「そうですね。記憶も私の封印によるもの。先ほどから封印の解除がここでも確認できますし、魔女と出会っていっきに封印が解除される可能性もあります。その場合、また周りを見ないで戦闘になる可能性も」

「早々、強制的にこちらへ帰すか。レイカの治療もしたい」

「それにしてもなぜ魔女があんなところに……」

「……可能性はいくつかある」



リャクはナナリーのもとに歩いて彼女が持ってきたお茶を飲んだ。リャクの場合、陣の前にいなくても問題ない。



「まず、あの不死が死んだというのが原因である可能性。オレ個人は死んでくれていたほうが清々しいが確証がない。奴のような力の強い秘密型能力者が死ぬのはこの世界に利益を与えない。少なくとも、永く存在し続けたものが衰弱ではなく突然消えたからな」



情報部のボスであった不死のツバサは死んだばかり。彼は銃口を頭に当てて自殺。自殺の場合、不死は復活するのかどうかリャクにはわからなかった。初めて殺し合いをしたとき、リャクは何度かツバサを殺害することに成功しているがすべてなんともないように生き返っているのだ。



「次に『黄金の血』か。奴等が使った力は膨大だ。帰還する際に周りを捲き込まないなんて保証はできない。それともオリジナルと瞬間移動……。寿命を過ぎて数年経つが長生きをしている。世に影響を与えるだろう」



お茶を飲みほし、リャクは陣を見た。暗い部屋ではリャクの表情は分かりにくいが、睨んでいることが僅かにうかがえた。



「前回、オレがオリジナルを送ったときに魔女も一緒だったかもしれない。最後に考えられることといえば収集家か」

「収集家ですか……」

「奴の異能なら転送も可能だろうが、魔女と繋がりがない。むしろ魔女を狙っているからこの線は薄いだろう
さて、強制帰還の準備をするか」



エマが異世界に存在する理由を後回しにしてリャクは魔術の準備に入った。