トンネルの出入口




カンッと金属の弾けた音がトンネルの中まで響かせた。
シングは両手にクナイを持ってエマに近距離での戦闘を挑んでいた。先に攻撃を受けた左腕は服を裂き、赤く黒い傷口を見せていた。ドクドクと心臓の動きに合わせて血は滲み、ポタポタと地面に跡をつける。シングは流血操作でなんとか自分の血を操られることだけを避け、エマにそんな隙は与えないと言わんばかりにエマへ攻撃する。
シングの瞬間移動能力は厄介だった。火や水を操るなどの形になるタイプではないぶん、対策を練るにこのトンネルの出入口を舞台に選ぶべきではなかったのだ。



「ぐっ」



シングのクナイが深くグサリとエマの肩に突き刺さる。瞬時に血の流れを防いで止血するも、痛みや傷つけられた肩は動かしにくい。
シングの動きは速く、いつ腕を振り上げたのかエマには全くわかっていなかった。シングの攻撃を紙一重で避け、弾き返すのはまぐれ。そして勘。エマに考える余裕などなかった。

エマのからだに血が滲んでいく。悔しく、歯軋りをしてエマは足を振り上げ蹴ったが空回り。何度も後退は試みているがいつもシングがそれを阻止する。
ポタポタとつけるシングの血の痕跡だけが彼の通過を知らせた。
エマはシングの抵抗も強行突破して彼の血を操ろうとした。

そんな中、エマの足の力が突然抜け、その場に倒れ込んだ。
シングの仕業ではない。シングはそれに驚いて攻撃の手を休めているのがいい証拠だ。



「当たりかな」

「おい、シングに当たったらどうする気だったんだよ」

「見えてるから大丈夫だよ」

「だいたいお前はまず人の話を……」



木の下に広がる茂みの中から人影が現れる。
エマは太ももが熱いのを感じてスカートを捲り、そこを見ると赤い丸がそこにあった。だんだん広がるそれを肩と同じように止血し、足の中に入ってしまった弾丸を流血操作でゆっくりひきだす。それと同時に茂みから現れた人影の正体を暴こうとそこを凝視。
聞いたことのある声になんとなく予測を立てながら視線を離さない。



「シング、ミルミが待ってると思うから先に戻りなよ」



まるで死んだような目だ。黒髪が肌を白く演出する。その白は透明感のある美しいものではなく、まるで死人のような――。
隣にいる少年は健康的だ。いや、死人のような少年も健康的なのだが、やはり死んだようなイメージが強い。



「ミソラ・レランス……」

「ソラ・ヒーレントって名乗ってるんだけど」



消音器をつけた拳銃がエマに向いた。