流血操作



エマは持っていた瓶を地面に思いっきり叩きつけた。高い頭に響く音と共に瓶の中から赤い液体が姿をあらわした。
血だ。
人間か動物かその血がもともと流れていた身体は本人しかわからないが、その血は強い鉄のにおいを放ちながら地面に広がっていった。



「いいのか?」

「?」

「俺も『血の契約』でその血は操れるぞ」

「はったり。嘘でしょ。だって守護者とギリギリの距離なんだから、自分達を繋ぐ細い糸が切れないように集中してて他の付属された力が使えないはず」

「どうだかな」



エマは右手を思いっきり引いた。
手のひらを拳にして引いたその手を合わせて地面で潰れていた血が起き上がり、エマの前に渦巻いて浮く。
クナイを取り出して握るシングにエマはやはりはったりか、とひそかに安心した。それでもシングの異能である瞬間移動を見切ることはできない。ただ厄介事がひとつ減っただけだった。

睨み合っていたふたりだが、最初に動き出したのはエマだった。
暗い色のセーラー服の裾を風に靡かせて血と共にシングとの距離を一気につめた。浮かせていた血を針のようにシングに突き立てたがシングは難なくそれを避けてしまう。しかしこのとき、エマの操っている血の小さな雫がシングの服に付着していた。
エマはその雫で針を形成し、付着していた手首を貫通させるほど突き刺す。シングは避けた先で言葉を詰まらせたがなんの問題もなくクナイを数本、エマに投げる。それを避け、避けきれない場合は血を盾の代わりにして防いだエマはニヤリとわらった。
貫いたシングの手首から彼の血が流れていたのだ。
エマはシングの流血まで操って彼の傷口を広げようとしたが、シングは同じ流血操作でそれを防ぐ。

たしかにシングは守護者であるミルミと離れてしまい、彼女の身を心配して戦闘よりもミルミを優先していた。よって集中はそちらにむかっているため、契約による別の力は使えない。
しかしいまは傷口を広げられることを阻止しなければいけなかった。主人であるシングの怪我は守護者のミルミに反映する。
ミルミに怪我を負わせないためにもシングは流血操作を用いて抵抗するのだった。

それでもエマは笑っていた。
シングの流す血は服に染み込んでいく。
その血でエマは再び針をつくりあげた。今度は複数。何本もの針がシングの手首だけにとどまらず、腕に突き刺さった。
シングはさすがに唇から短く鈍い声をもらした。