常日頃からの願い





「シングたちとレイカはどうしたの?」

「採取でまだ出てる」

「ふうん」



間にドアを挟んで、オレは男装に戻りながらルイトと話をした。

後藤さんたちと別れ、オレは自分の部屋に戻った。あとはもう帰るのみ。荷物はまとめたし、もうこの世界に用はない。
着替え、ドアを開けた。



「それにしてもレイカたち遅ぇな」



人の布団の上で寝転がるジンは天井を見ながらため息をついた。
あれ?たしか布団って畳んでしまってなかったか?こいつ、勝手に出したな。



「何を採取してるのか知らねえけど、たしかに遅いな。一時間で帰るって言ったのに」



ジンの隣に腰をおろしたルイトは部屋においてある時計を見てからオレをみた。



「オレ、レイカたちなんか見掛けてないよ」

「あいつらどこまで行ったんだ、まったく。シングとミルミがいるから迷子には……いや逆か。レイカがいるから迷子になるわけがない」

「お前の耳を使えよ」

「三人が会話してなかったら意味ないけどな、この耳」



ジンに指されてルイトは耳を覆うようにつけているイヤホンに触れた。
ルイトの異能は良聴能力。聴力の異常特化だ。おおまかに、簡単に言ってしまえば「耳がものすごく良い」のだが、実際のところは少し違うらしい。オレの異能が良眼能力で、ただ「目がものすごく良い」だけではなく人の視線を感じたり、その行く先がわかるなどがあるように。ルイトもまた、ただ「耳がものすごく良い」だけではないのだろう。

ナイトから軽く教えてもらったのだが、特化型能力者は普通型能力者と違って無限に成長できるらしいし。
特化型能力者であるオレは視力の良さだけでなくまだまだ成長できるんだって。まあ、要は本人のやる気次第だろう。
でもルイト本人は言っていた。「俺の異能は成長しにくい」と。どうしてなの、と聞いても理由を答えてくれないのだからあまり聞こうとはしないが……。良い意味合いは持ち合わせていないだろうな。



「この町だけなら取らなくてもいいか。お前ら喋るなよ?無駄にノイズを入れたくない」

「オレたちの声は雑音か」

「本当は呼吸も心臓も停止してくれないと困るがな」

「オレたちに死ねというのか」

「死ぬな。生きろ」



背中を向けてイヤホンを調整しているルイト。何気ない動作と、その声だけが独立したかのような芯の太さに……――素直に驚いた。



「……え?」



すこしふざけたような会話で、ルイトの真剣な声を聞くとは思わなかった。