地下室




組織の本部――そのビルは上に延びるだけではなく、地下にもいくつか部屋を持っていた。地下は数階分だけあり、そこは諜報部と研究部のみが使用している。常日頃から血の臭いが漂う地下だ。

そんな地下に、下着のみを残して服を脱がされたハリーが拘束された状態で転がされていた。そのハリーの手を踏みながらサクラは、壁際で真っ青な顔をしているシドレに話しかけている。



「男の裸なんてお前の一番のトラウマだろ。記録係のアイを残して、ワールはシドレを連れて上に――」

「い、いいえ。私もここで拷問を見ています。彼を連れてきたのは私たちですよ」

「精神的にやられてるのに、か?」

「これくらい……平気ですよ」



冷や汗で髪は頭に張り付き、服も内側はびしょびしょに濡れている。男性恐怖症のシドレはその深刻な状況に強がりを見せた。吐き気がしているのだろう、口元を抑えてひたすら堪えている。
シドレの肩を持って背中をさするワールも、今回ばかりは無理矢理にでもシドレを医務室へ連れていこうとばかり考えていた。記録係となったアイもシドレを心配している。



「どうせ何を言っても聞かないだろ……。見てもいいが、ほどほどにしとけよ」

「……はい」



サクラはため息をして、視線をハリーに戻した。ハリーの口に貼られていたガムテープをとり、彼を見下ろした状態で召喚陣を描いた。そこから現れたのは数匹の蜘蛛。青色が目立つ蜘蛛だ。その蜘蛛の足先には刃がついており、6本の足で歩くたびに金属音がする。成人男性の握りこぶし三つぶんの大きさがある蜘蛛は、ハリーの周りをぐるりと囲んだ。



「吊るし責めにするか、水責めにするか……、騒々しい人の笛もたしか隣の部屋にあったな。それから食べ放題に」

「せっかく四肢をもいでいないのです。エクスター公の娘やベタに爪責め、錐責めなどは? 頭蓋骨粉砕器でも構いませんけどね」



ハリーは「頭蓋骨粉砕器」という言葉に身を引いた。サクラやシドレが発する言葉にはよくわからないものや、イメージのつきにくいものがあったが、それは死んでしまうのではないかと寒気がする。



「そんなに時間はかけられねえぞ。おいハリー。こっちはミントの居場所と魔女の拠点を聞いてるんだよ」



イライラした様子でワールはハリーを睨む。アイは机の上に肘を立ててただ傍観していた。
ハリーはずっとこの質問には口を開かない。普段は陽気で口の軽そうな少年であるが、このような自体になると口を一切開かなかった。



「手始めに爪責めにしましょう。爪を剥いだところで喋るとは思いませんが。そのあとに山羊の舌にすればプレッシャーにはなりますよ。指が短くなるだけでは済みません」

「山羊なんていないぞ」

「サクラさんの召喚があるじゃないですか」

「俺をなんだと……。一応ボス補佐で、お前たちの上司だぞ」

「ツバサさんがツバサさんでしたので」



少しだけ雑談をして、シドレは相変わらず青ざめた顔で強がりに微笑んだ。
サクラは息を吐き、手をまえへ伸ばすと、蜘蛛たちが一斉に糸を口から吐いた。口から吐き出した糸は頑丈で、ハリーを床と固定する。ハリーは必死に発火能力を使って対抗しようとしたが、どこからかサクラの水属性である召喚術が邪魔をした。抵抗という抵抗もできないまま、ハリーにゆっくりワールが近付いて行く。