マレ・レランス




「死属性を得てから水属性の使用は極端に少なくなって、今では使用された姿を目撃する人は少ない。もしかしたら死属性に水属性が殺されたのかもな」



ルイトはスラスラと教えてくれた。その声は冷淡なものではなく、ルイトらしくオレを気遣いながら話している。
オレは目を丸くしていた。ふと左腕に目を落として、それから目を瞑る。

まぶたの裏にはまだブルネー島にいたころの思い出ばかりが過った。姉は優しい人だった。髪は魔女よりも黒っぽくて、目付きは魔女より優しげで……。しかし優しいが故に島の全員を殺したオレを家族として、人として許さないのだろう。

なんだ、すっきりした。

想像していたのはもっとオレがマイナスの感情を抱いて落ち着きを無くすとばかり思っていたのに。案外あっさりしているものだ。



「ありがとう、ルイト。なんだかスッキリした」



オレが案外落ち着いていることにルイトたちはわずかにも驚いていた。ルイトは目を点にするほど丸くしており、ジンは口をぽかんと開けている。レイカは少し動揺していた。



「お前、まじで? もしルイトが魔女みたいな立場だったら俺……取り乱すぞ」

「わ、私だって、それに近い人がいたらきっと殺せない……」



まあ、ふだんオレが魔女に関して過剰に反応する姿をみればこれは少し意外なのかもしれない。
しかしこれは記憶を封印される前にも知っていたことだし、後藤さんと雄平のいた世界にもいた姉が魔女だというなら納得もいく。ふたたびあちらの世界に行ったときに魔女とエマがいたのは、彼らに異世界を渡る力があるわけではなくオレに捲き込まれただけだったということだ。



「そうか。でも魔女を殺す理由がひとつ増えたね。人を殺したとき、大切な人が死んだときにオレに悲しみがあるのか。ブルネー島で殺し損ねたよ」

「ソラ、正気か?」

「もちろん」



友達だったラリスを殺してもなんとも思わなかった。近所の人だって、オレに刀を教えてくれた師匠だって、同じ学校に通ってた子や先生だって。まだ泣くことしかできない赤ん坊だって、助けを乞うおばあちゃんだって。



「シングの解けなかったこの忌々しい呪いを解くことが第一に重要だけどね」



左手を灯りに向けてみた。するとルイトがバッとオレのほうに向かって駆けてきた。ジンがオレを羽交い締めにする。



「は!? え、ちょ、急になんなの!?」



レイカは二人を止める間もなくあわてふためいていた。
ルイトは遠慮がちにオレの浴衣を肩まで引き下ろして、青ざめた。背後でジンが息を飲む音がした。



「お前、呪いが進行してるぞ……」

「え?」