呪いについて知りたい



「ねえ」



――ねえ。



「っえ?」



レイカに肩を優しく叩かれてオレは冷や汗を流した。全身に電流のようなものが流れる感覚がオレを襲い、吸うべき酸素を全部奪い取られたように呼吸が荒い。レイカはオレを不審に思ったのだろう。左右の色が違う目が心配の色を見せる。



「どうかしたの……?」

「えっ、あ、違っ……」



心臓が脈をうって、吐き気がした。
レイカはふとオレの左腕に視線を落とす。びっしりと刻まれた刻印しかそこにはない。
違う、違う。左腕が痛いのではない。

知ってる。
知ってる。レイカは、知ってる。違うのだ。知らないのではない。いや、その瞬間は――シングが末期であることも呪いの進行速度も、もしかしたらレイカは知らないのだろう。しかし、その目は――。その右目はなんのために? シングたちの遺体は今誰が――? 知ってる。あの、天才は! あの狂研究者は!



「……ソ、ソラ?」



頭がおかしい。イカれてる。オレをただのモルモット程度にしか思っていない。こっちは地を這いつくばってでも生きていたいというのに!
レイカの右目だけを睨んで水面を殴った。

馬鹿にしてやがる……!



「ソラ……? 急にどうしたの? あ、あの、その……」

「リャク様……、いいや、ノームはこの呪いの解き方を知ってるはずだ」

「どういう……」

「この呪いを通して何をしてるかって、そんなのわかりきってる。死属性の魔術の研究でもしてるんだろ。馬鹿にしやがって。狂ってる! ウノ様がオレのために研究部へ頭まで下げたと言うのにノームはそれでも研究のことばかり……!」

「まって、ソラ! 考えすぎよ! リャク様をそんな風に言うのは……。それに、リャク様だって私たち組織の忠誠を誓うべきボスだよ? そんなことは言わないで」

「オレが忠誠を誓うのはウノ様のみだ」



くそ、と悪態をつく。内気なレイカは反論する勇気をすでに使い果たして悲しそうな表情のみを浮かべた。



「……レイカ、ごめん」



レイカが信じているリャク様を悪く言ってしまったことを謝る。レイカは首をふって「大丈夫」と言う。



「出よう。のぼせる」



そう言ってオレはレイカに手を差し伸べる。その手の上にレイカの手が乗った。
温泉を出て、宿へ向かう最中、オレは無意識に呪いのことを考えていた。痺れるような軽い痛みが左腕だけではなく鎖骨や胸にまで届いている。そして姉ちゃんのことだ。
まだ、なにか思い出せていない重要なことがあったような気がする。



「ソラ、夕食楽しみだね」

「どっちかっていうと晩御飯だけどね」

「あ、そうだったね。……ルイトとジンはもう戻ったかな?」

「ジンが我が儘になってない限り大丈夫なんじゃない?」



そうやって雑談をしてレイカと宿を目指していた。