登山



細い人の道がある山を目の前にして、嫌そうな表情を浮かべるルイトはもちろん嫌そうな声でオレのほうへ話し掛ける。



「なあ、温泉ってどこにあるんだ?」

「この山の上」

「……もうお前には驚かねえ」

「大丈夫。三時間で登りきれるから」



オレは張り切って先頭を進んだ。レイカの落胆する声が聞こえたが、聞こえないふりをした。いい温泉なんだという噂があるんだから苦労の後にきっと幸せが待ってるって。夏じゃないんだから汗も滝のように出ることはないだろう。



「ソラ、ここって……、発展国?」

「そりゃそうだよ。国内国内。無能者のバスで来たんだから時間を考慮しても国内だとわからない? レイカがこういうことを聞くなんて珍しいね。どうかした?」

「えっ、あっ、ううん、なんでもないよ……」



まだ歩き出したばかりだというのにすでに息を切らしているレイカ。そんな彼女を罵倒しながらも手を差し伸べるジン。ルイトとやればできるじゃん、と話す。
レイカは優しいジンに何か裏があるのでは、と怯えているのでジンの好感度が上がったとはとてもいえない状態だが。



「なあ、この先に温泉があるのか?」

「ナイトからちゃんと聞いてるから大丈夫だよ。そんなに信用ないかな」

「信頼してるけどよ……、なんていうか、信頼してるからこそ安心できないというか」

「安心してよ」



服のフードを目もとまで深く被って、前をじっと見た。
休憩をはさみつつしばらく歩いていると唐突にルイトがオレの肩をつかんで横に並んだかと思うと、オレの耳に唇を近づけた。そして小さな声で言う。



「お前、ここがどこか知ってるか?」

「温泉があるところ……、どういうこと?」

「さっき思い出したんだけど、ここはレイカが人体実験されてた研究施設が近くにある山だ。今はもう廃墟になったけど……」

「じゃあ、もうレイカは気付いてるよね。へんな温泉地を選んでしまった……」



オレとルイトが一緒に振り替えってレイカを見る。レイカは顔を真っ赤にして汗を流しながらジンに引っ張られている。片手には自動販売機で買ったスポーツ飲料が握られている。



「レイカ、気付いてるよね。あんな様子だけど」

「あいつ、異能が異能だからな。気づかないほうがおかしい」

「なにを実験されてたんだろう……」

「あれ、覚えてねえの?」

「え?」

「レイカが眼帯の理由だよ。思い出せてないのかもな。あとで本人に聞いてこいよ」

「……そうする」