後藤千佳




「……なんで」



どこにもいないわけ?

ため息を吐きながらソラは十字路で立ち止まり、辺りを見渡した。



(学校は行った、もちろん図書館にも行った。後藤さんと雄平の家にも行った。市民図書館にも行った。後藤さんたちがいそうな場所はもう行ったと思うんだけど……。もう一回学校に行こうかな)



そう思い、ソラが来た道を戻ろうと身体ごと振り返った。
まっすぐに遠く続く道の先に、見えた。
ソラはその異能――良眼能力――故に、その眼に映し出した小さな人影の正体を理解したのだ。



「後藤……さん。見つけた」



懐かしい小さな人影。
相変わらずの三つ編みが、小さな背丈が、とても懐かしかった。歩きながら本を読んでいる危なっかしさも変わらない。
相手は本を読みながら歩いているのでソラの存在に気付いていなかった。――たとえ本を読んでいなくてもソラが遠くにいて、肉眼では見えなかっただろうが。

ソラは彼女に向かって足を踏み出した。
ここを離れた時にはなかった道端の雪が眩しくみえる。



「後藤さん、本読みながら歩いてると滑るよ」



ソラは二メートルまで距離を縮めて、久しぶりに彼女を呼び止めた。
呼び止められた当の本人は、足を弾かせた肩と同時に止めた。本に綴られた文字の羅列から目線を外し、ゆっくりソラを見上げる。
それから無言で、じっとソラを見てから本を落とした。



「……っ、!、!」



なにか言いたげに後藤はパクパクと口を金魚のように動かす。ソラは再会の喜びと懐かしさと他のたくさんの感情を隠しながらひとこと続けた。



「久しぶり」



短い。
しかし、実際はそれしか言えなかったのだ。ソラは後藤に掛けたい言葉がたくさんあった。後藤もたくさんソラに言いたいことがあるだろう。
だが、再会したときの挨拶だ。それが一番合う。それが、そのとき発した音が、表情が、全部が、ソラの近情をしっかり物語っていた。



「うん、久しぶり」



すぐに返答をした後藤の声が笑顔が懐かしく、ソラは僅かに微笑んだ。



「元気?」

「うん。元気だよ」

「よかった」

「ソラは?」

「ご覧の通り」

「なるほど」

「雄平はどこ?」

「雄平はまだ家で寝てるんじゃないかな?だって日曜日だし」

「そうか……。日曜日なんだ。だから学校にあまり人がいなかったんだ」

「?雄平に用事?」

「後藤さんと雄平」

「じゃあ雄平に連絡して呼ぼっか?」

「お願いします」

「はーい」



言いたいこと、話したいことはたくさんあった。しかしそれは3人でそろってからにしようとソラは口を閉ざす。後藤も、わかっているのか突然行方不明になったことに対して追求しない。