温泉の理由
ジンの攻撃というものは厄介だ。 身体能力上昇能力というもので、筋肉が異常に活性化しているものだ。さっきは軽く頬を殴られた程度だったのだが、今は地面をへこませている。全力ではないにしろ、当たったら骨がいってしまいそうだ。ただ力が強いわけではなく拳は物凄く速いのだから、喧嘩だといっても気は抜けない。
「くそ、避けてばっかかよテメェ!」
ジンが手足を使ってオレを殴ろうとしてもオレにそれが当たるはずもなく、ただ体力を消費していくだけだった。オレが蹴り飛ばしたり殴ろうとしてもジンの野性的な本能に負けてしまう。
そうやって喧嘩をしていたのだが、両方の体力が無くなるとベンチまで歩いていって寝転んだ。背中合わせのベンチではジンが隣で寝転んでいる。ルイトとレイカは別のベンチで二時間くらい前からお喋りをしていたため、オレたちのことに口出しはしなくなっている。 汗まみれで息をととのえながらジンは「なんで温泉なんだよ」と最初の質問に戻っていた。はじめから大人しく聞いていればいいものの、オレもジンも口より手が先に出てしまうので話しても仕方がないことなのだが。 息を切らしながらオレは空とジンから顔を背けて言う。
「……シングとミルミが死んで、その……三人とも元気なかったでしょ? 当たり前のこたかもしれないけど」
「俺に話してんだからこっち向けよ」
「オレの照れた顔なんて見たってしょうがないでしょ」
「……は?」
「元気にならないかなってさ。温泉行くことで少しでも、……気分転換に」
「お前……、誰だ? 本当にソラか?」
失礼な。 ジン側の背凭れに拳を叩き込めば彼は情けない声をあげた。「ソラだった……」と非常に驚いた声音で言うものだから直接殴ってやろうとして止めた。
「なんか、悪ぃ。俺が勝手に怒ってさ」
「ジンが短気なのは知ってるから気にしなくていいよ」
「わざと俺を怒らせたいのかテメェ」
「ジンは素直で、不器用に優しいからそれを全面に出せばレイカを落とせるんじゃないの? 勿体無い」
「な、ななな、なな、なにいってんだよ……!?」
「レイカと両思いになれるのにって。レイカを彼女にできるのにって。レイカと付き合えるのにって。恋仲になれるのにって」
「うわああああああああっ!!」
ジンは顔を真っ赤にしてベンチをちゃぶ台返しのようにひっくり返すものだから急いで退いた。どんだけシャイなんだか。 離れたところでルイトが呆れた表情でこっちに来る。その後ろを心底心配した表情でレイカがついてきた。
「おいおい、大丈夫かよ」
「ソラ、ジン、怪我はない? 手当てする……から? な、なんでジンは隠れてるの?」
「シャイなんだよ」
「ああ……なるほど」
「え? え?」
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