Be quiet!



「たまには良いことをするのね、ソラ」

「たまに、じゃない。いつも心掛けてる」

「はいはい」

「……」



ナイトに温泉の件を頼んだらあっさりと承諾してくれた。オレとしては嬉しい限りなのだが、なんだこの扱い。



「てか、ナイトはまだ仕事してたんだね。お疲れさま。何か持ってこようか?」

「ええ。傭兵部との緊張関係が一層としたから仕事が増えたのよ。なんとか乗り越えたいものね。コーヒーをお願い」

「了解。前みたいに暗殺部が独立した組織に戻ることはできないの? 内部がこんな関係だと外部からなにかされない?」



いまだウノ様たちは集会をしているため、ナイトは徹夜で待っているだろう。インスタントコーヒーを淹れながら、以前の水の組織を思い出した。
「水の組織」というのはあだ名のようなもので正式名は違う。しかしそれは以前あった、ツバサの「炎の組織」、リャク様の「大地の組織」、カノン様の「風の組織」も正式名ではない。水だとか炎、大地の、風と呼ばれるのは各々のボスが成した偉業に基づく。ウノ様が「ウンディーネ」様と呼ばれたように、ツバサが「サラマンダー」様と呼ばれたように、リャク様が「ノーム」様と呼ばれたように、カノン様が「シルフ」様と呼ばれたように。



「外部へは諜報部が目を光らせてるから問題ないわ。以前の組織に戻るといってもそれは難しいわね。そもそも四つの組織が合併したのはコストの大幅な削減とツバサの全面的な譲歩が大きな理由よ。私たちがたった五人の集団でもこの組織でそれなりに地位を築けるのはツバサの譲歩にも関係があるわ」

「ツバサ死んだけどね。はい、コーヒー」

「ありがとう。ツバサの引き継ぎはリカとサクラがしっかりしてくれてるわ」

「ふうん……」



まあ、組織の難しいことは上に任せてるからこの話を聞いたところでオレにはどうしようもないんだけどさ。オレはただ仕事をするだけだから。
ああ、なんか眠たくなってきた。



「そういえばソラ」

「なに?」

「うちの制服が新しくなったわ。対カノン様ですって」

「制服……ああ、コートね。てかカノン様と戦う気満々じゃん。別に良いけどさ」



書斎のソファーに寝転がる。二度寝の準備にかかっていると、突如部屋のドアが開いた。ドアの向こう側からこちらに来るのはオレが極力関わりたくない人物――シャトナだ。その後ろからレオがやってくる。



「あらソラじゃなーい!」

「こっち来んなシャトナ」

「おいシャトナ。報告書が先だ」



よく見なくてもわかる。二人はコートのフードを目元まで深く被っていて所々血がついている。仕事帰りあのだろう。シャトナがすぐにオレに引っ付かなかったのは返り血がついているからか。ありがとう、返り血。
シャトナがレオに引きずられてナイトから報告書を受け取ると机に向かって座った。
身の安全を確認するとオレは目を閉じて二度寝を始める。