Be quiet!



深夜。ふとトイレに行こうとベッドから起き上がって用を済ませたとき、オレは閃いた。深夜のことだ。何度も繰り返すが、深夜だ。時間など構わずオレは部屋を飛び出して隣人のドアを蹴り破った。ドアはただの板となったがそんなことは知らぬとオレはズカズカと中に入る。部屋の中間にあるベッドが弾けた。



「ソラ!? お前、今何時だと思って……」

「温泉行こう!」

「るんだ馬鹿……、え? お、おんせん?」

「温泉!」



ルイトにとっては耐えられない爆音に、彼は飛び起きた。ヘッドフォンを調節しながら首を傾げてポカンとしていた。



「いみ、わかんねえ……」

「温泉、たまご食べたい、から」

「温泉たまごぉ? ったく、そんなんなら俺が作ってやるから」

「えっ、本当? じゃなくて、温泉なんだって!」

「急すぎるだろ」

「一番給料が高いオレが全額奢るからさ。はい決まり。明日の夜に出発ね」

「え? ちょっと待……」



ルイトの返事など聞いていない。独裁政治なのだから。

さて、ルイトの部屋を出て、次は正面にあるジンの部屋だ。ジンのドアも同じように蹴り飛ばして中に入った。ルイトが自分の部屋のドアが壊されていることに今気が付いて悲鳴をあげていた。ルイトが更に隣にいるワールに壁越しに怒鳴られている。オレはそれらを無視してジンを叩き起こした。



「誰だよ」

「ソラ・ヒーレントと申します」

「なんの用だテメェ」



寝起きのジンは怒りっぽい。謙譲語を駆使して話さなければ骨が何本か逝く。



「明日の予定を確認しに参りました」

「朝にしろよ」

「いえ、一刻を争うことなので。安眠されているところ大変申し訳ありませんが、少しお時間の方よろしいでしょうか」

「一分だけな」

「ありがとうございます」



馬鹿め。



「明日の夜、温泉に向かうことにしました。予定はごさいませんか?」

「……知るかよ」

「では確認して……」

「うるせえよ。あーあー、行くから失せろ。寝させろ」

「わかりました。失礼します」



睡眠のことしか考えていないジンのことだ。首を縦に振ればオレが失せる程度の理性はある。今の会話は録音したので証拠は残った。
あと誘いたいのはレイカだが……、まあ、レイカなら頷くだろう。ナナリーから休暇をもらったと聞いている。それにごり押しすればレイカは頷く。よし、あとはナイトのコネでも使って宿を予約しよう。

夜勤の諜報部員と研究部員、傭兵部員が静かに廊下を歩く中、オレは上層部まで走った。地獄のような階段も数段飛ばしてナイトのもとへ急ぐ。