彼の思惑



「きっとツバサを捜しに行ったんだろうなあ。ティアのすることはだいたい予想がつく。しかし異能の制御もできていない秘密型能力者を野放しにしてもよいのかどうか……」

「ウノのいう通りだ。だが、死神はオレたちの組織に加入してはいないし、どこで暴れて事件が起きようと関係ない」

「ならば放置すれば良いではないか」



カノンは目を閉じてしまう。たしかにカノンの言う通りだとリャクは頷いた。テアのことなど放置しておいても構わない。実際、リャクはテアの捜索のために人員を割きたくはなかった。



「もし、あいつがツバサといたらどうする?」



リャクの眼光は鋭い。「まさか」と笑い混じりに言おうとしたウノも、それが口から出ることはかなわない。カノンは首を降った。



「あの腐れは死んだだろうが」

「奴は不死だ」

「えらく信じているではないか」

「勘違いするな。最悪の事態を想定している」

「ほう?」

「ふん。可愛くないな。あの死に損ないとこの組織が何も縁がないとは思えない。そもそもオレたちが各々纏めていた組織を合併しようと言い出したのは奴だ。もしそれがオレたちを袋の鼠にするためなら、もしそれが仲の良いとは言えない者を集めて自滅させるためなら?」

「我の部下がウノの部下に殺されることもあやつの推測通りだと言うのか?」

「そんなことは知らん。これは可能性だ」



腕を組んで背凭れに身を預けるリャクを少し睨んでからカノンは再び目を閉じてしまう。手前のテーブルには1枚のカードを残して寝てしまった。



「ツバサの口車ならティアは鵜呑みにするな。むしろツバサの口車に嵌められたことのない者など見たことがない」

「不死と死神を同時に相手にするかもしれん。補佐にも伝えておこう。オレは今日から集中的に奴らの居場所を炙り出す」

「天属性か。ははは、楽しみだな」

「呑気にしているなよ。今後の方針だが、貴様らは確実に一度ぶつかるのか?」

「ツバサの罠だろうがなんだろうが、私たちは私たちで決着をつけねばならない。手のひらでいくらでも踊って見せようじゃないか」



弱々しい笑いがウノから発せられる。だんだんと声が小さくなり、静まってしまう。余韻を残しながらもウノは声を響かせる。



「もし私がカノンと相討ちになったらうちの部下をリャクに任せたい」

「構わんが……」

「ありがとう」