ウノとカノン
「死神のティアが行方不明であるのと、今後の方針について集会を――」
「ふん。我の部下をよくも殺してくれたな。暗殺部よ」
ウノとカノンの間に好ましくない雰囲気が流れているため、リャクが司会をしようとした。しかしリャクが話している最中にカノンが割って入り、ウノのほうを睨む。
「おい貴様、まだオレが話してるだろうが」
「知らんわ」
「なんだと――」
「まあまあ、落ち着こうじゃないか二人とも。ボスであるのにみっともないだろう?」
いつものように温厚なままに見えるウノだったが、それは肉体がないからそう見えるだけだ。十分そのことを理解しているリャクとカノンはそれぞれ反応をする。
「お前も落ち着け……」
「事実ではないか」
「おやおや、まさか自分が正義だとは思ってないな?」
「同じことを貴様に問おう。被害者ごっこなら他を当たれ」
リャクは頭を抱えた。ウノとカノンの間にはツバサとリャクのような「犬猿の仲」とは違い、ただお互いに復讐の念を抱いている。「嫌い」に似た部類よりも「憎い」に相当する。第三者があまり介入すべきではない事柄とはいえ、このまま放っておいてはこの二人によって組織本部の建物が崩壊して多数の犠牲が出る。――リャクにとっての犠牲とは研究とその材料――。
「いい加減この現状も飽き飽きする。そろそろ死ね」
「私は死んでも構わないが、その前に返してもらうべきものがある。まずはそれを返してもらおう」
「ここは貴様らの墓場ではない! 他所でやれ!」
リャクの中級魔術が発動した。ついさきほどまで静かに詠唱をしていたのだ。 ウノとカノンには三メートルほどの女神の石像が現れた。威圧感を放つ女神像は美しく妖艶であった。その女神像の肢体から次々に氷結された鎖が伸びてウノとカノンの周囲を囲った。冷たい空気が足下を通り抜ける。
瞬時に漆黒のカードを取り出したカノンだったが、これがただの拘束系魔術でないとわかるとカードを消して見せた。 その違和感にはウノも当然気が付く。抵抗はしないでため息をもらした。
「貴様らが殺しあおうがどうしようが勝手だが、ここではやるな。扉の外には補佐もいる。ガキか」
「ああ……、すこし頭に血がのぼっていたようだ。悪かったな。しかし私なんてリャクより子供よ。はっはっは」
「調子に乗るなよリャク」
「周りが見えない貴様には言われたくない台詞だな。……まあいいだろう。今後の方針は後回しだ。まずは死神のティアについて話し合う」
「ウノ、貴様の寿命は残り少ないと思え」
「寝首を取られないように気をつけることだな。カノン」
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