決意
「境……」
響が境に気が付いた。一度睨むだけで境にはなにもしない。 今、境が何をしてももう手遅れなのだ。それでも境には響が見捨てられなかった。
「響! どうして……」
「これで戦争は終わる」
「どこに行ってしまうんだ、響。戻ってきてくれよ……」
「……境、頼むからもう話しかけないでくれ」
響は顔を反らした。響をまっすぐ視界に捉える境からにげるように。すぐに部屋を出ようと急ぐ響の前に境が立ち塞がった。
「いままでずっと一緒だったのにこのままお前を行かせるわけにはいかない。戻ってこいよ」
「断る。確かに生まれも育ちも同じだが、人生のなかで見てきたものがお前と違う」
「また一緒に暮らそう? なあ……」
「俺は響だ。境じゃない。俺を境にしないでくれ、頼むから」
「私はお前を止める。響は響だ。それは誰よりも私が一番知っている。命をかえてもお前を止める!」
「命を粗末にするな馬鹿」
「はっ、命を粗末にしても響なら無駄にならねえよ」
「……境が命をかけるなら、俺もそうする必要があるな」
境が命をかけるならば、響もそうでなければ失礼だ。好戦的な境はニヤリと強がりの笑顔を見せたが、その頬には嫌な汗が走った。響はあくまで冷静を装いながらとったばかりの首を机に置いて、境と対峙した。
「愛してるぜ、弟」
「ああ、俺も愛してる」
目の前にいる、見慣れた顔の女はいつものように好奇心にか られた不敵な笑みを浮かべている。仲間なら、あのときな ら、頼りがいのあるその笑みだったのに、今では背中が凍え てしまうくらい冷たく、冷酷で、恐ろしい。 そんな感覚を覚えながら響はごくりと唾をのんだ。
境が動く。槍でも容赦なく接近し、響の足下からすくうように薙いだがすぐに響は横へ避けた。くるりと回して遠心力を利用した攻撃を使うが、槍の柄で防がれてしまった。一瞬だけ抜ける響を見逃さず、境はすかさず彼の腹を蹴った。響はなんとか受け身をとると床を這うように回り込み、浅い傷を複数つけた。響のちまちまとした攻撃は少しずつ境を消耗し、翻弄していった。響の攻撃を振り払って距離をとった境は息継ぎをした。好きだらけになった境に響は誘われるように追撃を仕掛けた。 境の作戦は成功だ。自分からやって来た獲物を逃すはずもなく境は槍の柄をそっと響に向けた。響が気が付いたときには遅い。勢いは止められなかった。響は自分の槍で境の槍を弾いた。
境の槍が、響の腹に食い込む――。
「……え?」
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