別れ
 


「境! 純とは僕が戦うから先に行って!」

「ああ、お言葉に甘えて……」

「そうはさせませんよ」



漆の回し蹴りが純の脚にひっかかった。純がバランスをくずし、漆は境へそう伝える。境は頷いて響の後を追おうとした。しかしその前に立ちはだかったのは遊自だった。遊自はいまだ数十メートルも先の廊下にいるものの境たちに向かって歩いている。純はほっとした様子を見せたが、境は彼を睨んでいた。遊自とは初対面の漆だが、彼が敵であり寄生者であることは理解している。



「てめぇもいたのか」

「はい、もちろんですとも」



境は迷わず遊自に槍を向けると、すぐに駆け出した。遊自はニヤリと笑ってチェーンソーの電源を入れる。
境は突っ込んだように見せかけて、チェーンソーから回避をした。そのとき、槍の柄を遊自の脚にひっかけた。遊自が転倒。純は境を狙うが漆が純のライフルを蹴り上げてしまった。遊自は背を床につけながらもチェーンソーを境の方に向ける。境は舌打ちをした。チェーンソーに触れればその身が割かれてしまう。それは身体だけではなく武器も強度が格段に下がる。
漆は純のライフルを蹴り上げるとすぐに、遊自の元へ行き、チェーンソーに恐れることは一切無く遊自に刃を向けた。遊自が漆に気をとられた隙に境の槍が肉に食い込んだ。起き上がろうとしていた遊自は槍が自分の脇腹に刺さったことでうつ伏せに手をついて血が出る腹を抑えた。チェーンソーの電源は切られている。

そのすぐあとに純が拳銃を撃った。境はチェーンソーを持つと窓の外へ落としてしまった。下のほうでガチャンと壊れた音がする。



「情けないですねえ、ワタクシ」

「私と漆に喧嘩を売ったのが間違いだ」

「ちょっと境、そこの遊自って人を倒したら喋ってないで早く言ってくれないかな」



漆は拳銃を撃つ純の攻撃から避ける。境は若干毒のある漆の言葉に甘えて先へ進んだ。

廊下は長い。一人になった境は元帥がいるであろう中央の立派な扉を探していた。上層階になど境はあがったことがない。ため息を吐きながら頭を掻いた瞬間、男性の掠れた悲鳴がした。境はすぐにそれが聞こえた場所を目指す。
やがて一つの扉の前に立った。

そこで一秒と立ち止まることなく境は扉を開けた。
そこには想像していた通り、シワの多い男性の生首を持った響が平然とした表情で立っていた。境ははじめて、響が敵なんだと思い知らされる。

目の前にいる、見慣れた顔の男はいつものように余裕の笑み を浮かべている。仲間なら、あのときなら、頼りがいのある その笑みだったのに、今では背中が凍えてしまうくらい冷た く、冷酷で、恐ろしい。