終焉の音
 

目元まで帽子のつばを深くかぶっている漆は帽子を被りなおした。一度帽子を向いだとき、漆も純と同じように涙を浮かべていた。怒りなどいっさい含んでいない。漆もまた、純の行動に心を痛めていた。同じように心が引き裂かれ、息ができなくなるほど苦しくなり、生きた心地がしない。ここは地獄だろうか。悪夢なのだろうか。どうしようもない現実なのだと気づきたくない。己を律するために厳しい言葉を紡ぎ続けた。

床にさみしく落ちたLEと記された腕章は死んでいるようだ。



「純……、僕は純を許さない。でも純に信頼してもらえなかった自分に一番腹が立つんだ」

「漆、私、漆のこと」

「僕はLEとして純と響を止める。こんなやり方、間違ってる!」

「……漆」

「純、立って。まだ信念は折れていないでしょ?」



先に涙を目からこぼしたのは漆だ。すぐあとに純がぽたりぽたりと落としていく。深呼吸をしてライフルを手にとると漆に向けて構えた。漆はその一連を見届けると袖で涙をぬぐって目を真っ赤にしながら抜刀の構えをする。
ふたりの様子を見守っていた境は漆と同じ位置に行くと大鎌ではなく響と同じ槍を持った。そしてそれを響に向けて構える。



「私も漆の言っていたことと同じだな。なんでお前らだけで抱え込んでたんだ。私たちはそんなに頼りないかよ」

「そうじゃない。境たちに話すような話じゃなかった」

「それが頼りないってことだろ! 身内まで騙して突然こんなことして。楽しいのかよ。私はお前たちが裏切り者じゃないと信じてた。あーあ、裏切られた。響、お前は悪党だな」

「境がなんと俺を罵ろうと俺は信念を曲げない。言ってるだけで無駄だぞ」

「わかってる。でも弟と刃を交えたくねえって思ってちゃダメか……?」

「好戦的な境がそんなことを言う日が来るとはな」

「ふん。お前たちがやっていることは悪党と同じことだ。考え方は正義だと思うぜ。けどその行動はまるで悪役だ!」

「なにを言っても無駄だぞ。俺は元帥を許せない。殺しに行く」

「私は命をかけてお前を止める! ほかにも方法はあるはずだ! 考え直せ!」

「……断る」

「なら仕方がねえな。実力行使だ!」



境が初めに動いた。それはとても素早く、力強い。あっという間に響に迫った。武器を構えていなかった響は境の攻撃をなんとか紙一重で避けると、すれ違う瞬間に境の横腹を蹴った。境は壁に体を打ち付けた。純の銃口が境に向いたのをいち早く察した漆は抜刀をきめる。純はライフルを盾にした。



「響! 二人は私に任せてください! はやくこの戦争を終わらせましょう!」

「させるかクソッタレ!!」



響は強く頷いて駆けだした。境が追いかけようとしたものの純が射撃をして邪魔をし、響を逃してしまった。