五階の音
 



響と純の二人が五階に上がって少ししてから葉蝶と夏満の二人と合流した。シガとロネの姿は見えないがすぐ近くの部屋が騒々しいため、そこにいるのだろう。
葉蝶の相変わらずの馬鹿力と夏満のテクニックを要した器用な戦いかたは響と純よりも簡単に敵を殺していく。二人の連携ができた休みない攻撃には休みがなく、また、響と純が手を出す必要の無さを感じさせられた。



「殲滅なんて……」

「葉蝶」



寄生者側に寝返ったといっても葉蝶は軍を殲滅することに抵抗感があった。ここまでする必要はあるのか、と。夏満の声は葉蝶を咎めるよりも同意する様。葉蝶は相手を殺さず死なない程度の攻撃を繰り返し、夏満もそれに従っている。響と純はそれを止めようとはしなかった。

少しすると、騒々しかった部屋から銀髪の双子が姿をあらわした。葉蝶と夏満の姿を見て少し驚いていたようだが、とくに気にする風には見えない。



「おや、LEの一番目と二番目じゃないですか。ならこちら側にはあまり人数は必要ありませんよね。僕たちは遊自たちの方へ行きましょう。桜羅が力を使って疲れてしまうでしょうし」

「そうだな、その方がいいだろう」

「ですね。ではまた後で」

「頑張れよ、二人とも」

「そちらこそ」



ロネは口を開かなかったが、シガがロネの分まで話をする。二人はそろって響たちに頭を下げたあと駆け足で階段を降りて遠回りして行った。



「葉蝶と夏満は各部屋を制圧していってほしい。俺たちはさっさと元帥の首を跳ねてくる」



制圧。それは殲滅ではなかった。葉蝶は響が気を使ったのだと思うと頬の筋肉が抜けていった。元帥を殺してしまうという絶対に反した行為も担うという。葉蝶と夏満では殺せないかもしれないという不安があったのだろうが、あながち間違ってはいない。



「ごめんね。ありがとう」



葉蝶は顔を見せずにそねかままシガとロネの出てきた部屋の隣に入って行った。



「不甲斐ないな。力になれなくてすまない」

「気にしてない。それに、その言葉は俺たちじゃなくて寄生者たちにしてやれ。じゃあ、また」

「ああ。純も気をつけてな」

「はい。……あ、ありがとうございます」



夏満は葉蝶のあとを追いかけていった。
その背中を見送り、ドアが閉まるのを確認した響と純は数歩歩いたあと、ふと立ち止まった。後ろの方がうるさい。階段をかけ上る音と怒鳴り声が背中に痛い。



「ひーびぃーきぃー!」



自分の声と同じくらいよく聞く声に響が肩をすくめた瞬間、「この馬鹿野郎!」と殴られた。境が響に、ではなく、漆が純に。