決意
 



拒絶反応が起きた。当たり前だ。人間の独利の体内に寄生者の血が流れたのだ。ただの血なら問題はないのだが、寄生虫の血だ。拒絶反応が起きているという時点ですでにみわの話の信憑性が高まったが、境たちにはそんなこと頭にはなかった。



「おい独利! お前馬鹿か!? なにしてんだよ!」

「ちょ、独利……!?」

「うそっ」



驚いているのはLEだけじゃない。みわも同じだった。自分から血を流したみわだが、まさか血を体内にいれるとは思ってもいなかったことで驚きを隠せなかった。
葉蝶と夏満が独利の体を支えて、ただ見守ることしかできない。
やがて独利はそのまま意識を失ってしまった。



「なんで独利……、こんなこと」

「色の汚名挽回だろうな。色は私たちの仲間だ」



境はうつむいて拳に力を込める漆の頭を下手くそに撫でた。



「ねえ、独利……、寄生者に……!」



震えた声で桃紫は口をおおった。その声に反応して独利を見た椿も目を丸くする。対寄生者部隊の面々が、最初にはなかった二つ目の寄生者の気配を察知したのだ。かわりに――人間の気配が一つ消えて。独利だ。みわの言った通りだった。寄生者は突然変異ではなかった。
葉蝶と夏満は丁寧に独利の体を寝かせてから力強い眼差しでLEの面々を見る。



「彼……、みわの話を聞いて私たちが取るべき行動を考えよう。みんなの命運は私の手にあまる。これからどうする?」



いつもより一段と低くなった声だ。葉蝶の顔は強張っていた。手足が若干震えている。漆は帽子をかぶり直すフリをしながら静かに意を決した。
即答したのは境だった。



「はっ、裏切るもクソもない。私は響に真実を確かめに行く。悪いとは思うが、私はまだ寄生者を信じきれない。裏切り者扱いの響と純に確かめたいんだ……」

「僕も境と同じ。いきなり現れた寄生者の言葉は信じきれない。でも、その内容や意味には信憑性があると確信するよ。感じ取っただけで明確な言葉にはできないけどね」



境と漆の意見だ。そのあとに桃紫と寂、そして田中と椿に続いた。



「独利が寄生者になったのは確実よ。これで軍の教えも戯言になりはじめているわ。私は軍が信じられなくなったわぁ。寄生者の仲間になるのも悪くないわねぇ」

「ゴホゴホッ。寄生者側につく価値はありそうだな」

「うーん、オレはまだ迷ってるのが正直なところなんだよねー。いきなりそんなこと言われてもさあ……。桃紫が言うように独利が寄生者になったのも確かだし、でも軍を裏切りきることもできないかなーって。中立は駄目かな?」

「田中先輩、中立はいい加減じゃないですか? でも俺も中立に賛成です。いきなり常識を覆されても納得しきれませんよ。ですから中立には賛成。軍と寄生者の敵でも味方でもない。自分が納得できるまで」



葉蝶は頷いてわかった、と言う。みわは独利を眺めながら自分のできるところはここまでか、と不甲斐なさに唇を噛んでいた。もともと対寄生者部隊という集団のなかで味方に数人つけることができるのは上出来だが、理想通りにはいかなかった。



「夏満は?」

「葉蝶と同じ。葉蝶の背中を守るのが俺の仕事だ」

「ふふっ。私は寄生者側につく、っていう桃紫と寂の二人と同じだけど……、いいの?」

「後悔はない」

「……ありがとう」