その理由
 



「自分勝手に生み出した寄生者を敵とみなして戦争をする。それが軍上層部の『遊び』であって、君たちが今まで騙されてきたことだよ」

「軍上層部――元帥の動機は何だと考えているんだ?」

「戦争以前のこの世界は平和過ぎてつまらなかったらしい。軍部があまり機能しなくて廃止されようとしているくらいね。今の軍上層部はそれを恐れて、もしくは刺激を求めて今の戦争を引き起こしたと僕たちは考えてるよ」

「被害妄想なんじゃないか? そんなこと敵のお前たちに言われても納得いかない……。ゲホッ」

「そうねえ、唐突すぎるわぁ」



みわの言葉を信じられない人の台詞は彼にとって失望的だった。証拠がないなか、敵の言葉など戯言でしかない。みわは目を伏せた。どうやって説得してみせようか、と。



「あなたはわざわざ私たちのところへ武器も持たず単身で乗り込んできた。それは確実。誠意はあると思うな」

「葉蝶!」

「夏満」

「っ……」



みわの頭を撫でる葉蝶に夏満は咎めようとしたが、葉蝶に制されてしまう。葉蝶は剣を下ろして床に突き立てた。付着したみわの血が重力に従って垂れる。その血を独利だけが静かに見つめていた。



「あなたの目的は何?」

「――人間側の軍上層部の崩壊を……手伝ってほしい」



一段と低くなったみわの声。瞳はここにはない何かを睨んでいた。
みわの言葉に全員が絶句した。LEまるごと、軍を裏切れというのだろうか。しかしみわの口から語られた言葉が真実であるならば、軍は悪。だからといって、この少人数では勝ち目がない。



「LEが先陣をきって軍を裏切ってくれれば、数には困らない。LEは対寄生者部隊でもトップクラスの実力。LEさえ判断してくれればあとは中将が全対寄生者部隊に軍を裏切るよう命令を下すはずだから」

「ええ!? 中将も裏切ってるの!? 響といい純といい……。そんな信憑性がない話」

「……みわ、その話は純が信じてるんだよね?」

「おい、漆」



田中が驚いていると、漆は意を決したように口を開いた。境はまさか、とすぐ斜め下にいる漆の肩を掴んだ。



「響と純はずいぶん前から僕たちの仲間だよ」

「純を騙してたりはしてないよね?」

「騙してない。騙されてるのは君たちだよ。……こんな理不尽な差別をする世界をどうにかしたいんだ」

「……そう」

「俺からも質問だ」



漆は肩に置かれた境の手を握り返してうつむく。弱々しい姿を見せる漆に、境はみわに対して抱いていた逆上をすでに忘れていた。
漆の次に、表情の分かりにくい独利だ。



「色を殺したのはお前たちの仲間で間違いないんだよな?」

「そうだよ。彼は姉の彩と同様に軍上層部の手先だった」

「そう、なのか。……いや、死んだ色のことはもう……。証拠を見せてもらう」

「え?」



ズカズカとみわに近づいていく独利。みわは挑発比例して離れたくても縛られているせいでそれはできなかった。独利は止まる様子を見せない。そしてみわの目の前で腰を下ろした。その場にいる全員が何をするんだ、と緊張をするがそれをよそに独利は知らぬ顔でみわの血濡れた手をとると、迷いなく血を口に含んだ。